齋藤 駿介
冬季季節風に影響される積雪深の地形依存性に関する研究
熊倉 俊郎
山に多量に降り積もった雪は,自然に蓄えられる貴重な水資源であり,その消長を知ることは水文学上も実用上も重要であるが,高標高地域や急勾配斜面において,積雪深の観測値を得ることが非常に困難である.山間部のより正確な積雪深の推定値を得るためには,積雪深の地形変化による影響について明らかにする必要がある.Uno et al.(2014)において,風上と風下で標高依存性が異なることが示唆されているが,風上風下の判別方法が正確ではないため,より正確に定義する必要である.そこで,局地気象モデルWRFによる風ベクトルと標高データによる傾斜ベクトルの内積と取ることで,風上風下の判定方法を定義した.
地形による風上風下の影響を検証するために,起伏が大きく標高の高い領域Aと,起伏が小さく山筋の多い領域Bを対象とし,水平に高密度な積雪深観測事例を用いて標高と積雪深の関係をプロットした.その結果,標高と積雪深の関係は,領域Aでは風上と風下で傾向の差が大きく,領域Bでは小さかった.この結果より,風上側斜面で雪が降り切るかどうかによって,風下側の積雪深に影響を及ぼすことが示唆された.
この結果を踏まえ,さらに精度を向上させるには,雲が経てきた地形の関数とその場の地形の関数を用いることで積雪深を推定できるのではないかと考えた.そこで,雲が経てきた地形の関数は,冬季季節風の主風向の流線を辿ることで,風上側の傾斜角の総和,海までの距離を算出し,その場の地形の関数は,標高と起伏量を算出した.これによって得られた関数を,重回帰分析によって積雪深の推定値を計算し,標高と海までの距離を用いた中峠ら(1975)の式と比較検証を行った.中峠ら(1975)の式を領域Aと領域Bにそれぞれ適応したところ,領域Aにおいて,起伏の大きい地域に誤差が集中し,風上では推定値が過小評価,風下では推定値が過大評価していることがわかった.そこで風上と風下を分けてから標高,海までの距離,風上側傾斜角の総和,起伏量の4変数を用いて重回帰分析を行った結果,領域Aの風上において決定係数が0.97,RMSEが22.7cmと精度が非常に向上し,風下において決定係数が0.56,RMSEが40.5cmと精度がやや低下した.また領域Bでは,風上と風下で分けることでどちらも精度が向上した.この結果より,風上と風下でそれぞれ分けて積雪深を推定する必要があり,特に領域Aの風上では地形の要因のみで積雪深をほぼ説明できることが示唆された.
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