大熊 崇司

流出成分分離による積雪影響判定と水文年に関する考察

陸 旻皎

水文データを扱う際,流域内の水収支がどのような傾向を辿るかは重要であり,水収支方程式はその基本となる.水収支方程式の時間 t 1 から t 2 の期間を1年とすることで, s 2 - s 1 の値を0に近似することが出来る.しかし,通常のカレンダー年の通り1月1日を開始期とし,1年間の水収支を考えると,降雪地域では12月末日時点で流域内に雪が堆積している.当然毎年の積雪量は変化するため,カレンダー年を用いての水収支の計算をすると貯留量 s 2 - s 1 が0にはならない.そのため,カレンダー年を用いて,年水収支を計算することは相応しくないのではないかと考える.そこで,流域内が最も乾いて気候が穏やかな時期を開始期とする水文年を用いた集計方法が使われている.本研究では, 流域ごとの水文年の開始期の違いを比較し, 地域的, 気候的な水文年の開始期の特徴を把握するため, 1級河川のうち18か所を選定し,日本全体の水文年の傾向を考察した.
流域内の積雪の有無が水文年の開始期の決定に大きく関わることから,積雪の有無を正確に判定する方法の考案が必要となる.正確な積雪の影響判定を行うために,流量データを直接流出と基底流出に分離し,流域の流出特性の把握を試みた.基底流出と直接流出に分ける分離周波数の値が積雪がある場合とない場合で大きく異なることに着目し,これを積雪の影響判定の基準とした.日本全体で比較をする際,フーリエ変換によって時間情報が損なわれていることが問題となった.そこで,ウェーブレット変換を用いた分離周波数を把握する方法を考案した.ウェーブレット変換を用いた判定法では,時間情報を損なわずに解析することができるため,個々の流域の気候に合わせて積雪影響判定を行うことが可能となった.
 積雪影響判定を行った上で,18か所の流域の水文年の開始期を大きく3つに分類した.1つは,九州や四国,中国の瀬戸内海側,九州の太平洋側に位置し,積雪の影響がないと判定された流域である.これらの特徴は,水文年の開始期が12月末や1月頃となることである.2つ目は,積雪の影響があると判定された中国,関西の日本海側や,関東,中部,東北の南部に位置する流域である.これらの流域は,11月頃に水文年の開始期を持つ傾向となった.3つ目は,2つ目と同様に積雪の影響があると判定されたが,水文年の開始期が6月,7月頃となった東北北部や北海道に位置する流域である.

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