MENCHACA SOSA ARTURO ALEJANDRO
 
 高度成長期に建設されたRC造建築床部材の施工品質と耐荷力評価に関する研究.
 
 下村匠
 
 日本では,高度成長期に造られた構造物が多数存在する.高度成長期の開始から50年間が経過し,構造物の老朽化が問題となっている.このため,老朽化した構造物の診断,維持管理が重要とされている.高齢な構造物の維持管理においては,適切な診断を行い,必要に応じて補修・補強を行う必要があるが,これを達成するためには,当該構造物の実態把握を把握する必要がある.
 本研究では,高度成長期に建設された建築部材の診断と構造性能評価法の検討を行うことを研究目的としている.また,高度成長期に建設された,建築部材の施工精度の実態について分析を行うことも目的である.この目的を達成するために,糸魚川市立磯部小学校の教室から切り出された床版を研究対象とした.磯部小学校は高度成長期に建設された学校建築である.本研究で対象とした床版の寸法調査や載荷試験により,施工品質の良否やばらつきが,耐荷性能に及ぼす影響についての検討を行った.
  床版の調査では、入手した床板の出来形を表す厚さに加えRC構造物の構造性能及び耐久性に重要な役割を果たす,鉄筋かぶり,鉄筋間隔を計測することで、RC造建築床部材の施工時の品質についての検討を行った.
 そして,力学実験として,床版の載荷試験及び載荷試験後の床版から抜いたコアの圧縮強度試験の2つを行った.これらより,力学性能とそのばらつきの検討を行うことができた.また,床版の載荷試験終了後、床版からコアを取り出し,圧縮試験を行うことで床版の力学性能を評価するためのコンクリートおよびモルタルの物性を把握した.
 調査の結果としては,統計的な分析により,厚さ,鉄筋かぶり,鉄筋間隔に大きなばらつきが見られ,施工精度が悪かったことが確認できた.また,この施工のばらつきが,耐荷力に大きな影響を与えることを載荷実験の結果で見られたばらつきにより明らかにした.
 また,調査した床版の品質を評価するためには,現在の日本の法律的な建築設計基準である日本建築学会建築工事標準仕様書JASSを使用することにした.その結果,建築基準JASSによる床版の設計作用曲げモーメントは,床版施工の悪い精度であっても以上の耐荷力を保有していることが確認した.また,JASSで定められたコンクリートの最低限の圧縮強度を満足していることも確認した.
 以上より,本研究で対象とした建築物のように,高度成長期に建設されたものの中には,施工品質が悪いものもあるので,継続使用する際には,かなり入念な非破壊検査を行うなどで,品質の空間的なばらつきを把握した上現有性能評価を行う必要があると結論できた.
 
 


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