氏名:原田健二

論文題目:構造物表面における水の流動に伴う塩分の輸送とコンクリート中への侵入に関する統合解析

指導教員:下村匠

積雪寒冷地では冬季に路面凍結を防ぐために凍結防止剤の散布が行われている.そのため,飛来塩分の影響がないような山間部のコンクリート構造物においても塩害事例が多く発生している.凍結防止剤による塩害の特徴としては,損傷箇所が漏水個所などで局所的に生じることや塩分の供給が冬季に限定されることなどが挙げられる.そのため,凍結防止剤による塩害を適切に評価するためには,塩害による構造物の劣化範囲の把握とコンクリート中への塩分浸透性状の季節的変動を正しく考慮した塩分浸透の予測が重要になる.
以上から本論文では,凍結防止剤による塩害の損傷箇所の多くが漏水箇所で確認されていることに着目し,構造物表面の水の流れとこれに伴うコンクリート内部への塩分浸透の数値解析による再現方法について検討した.そして,実構造物における流水痕と各部位における塩分浸透の実測結果と数値解析による再現解析の比較を行った.
本論文の解析モデルは,構造物表面の水の流動解析とコンクリート中における水分・塩分浸透解析の2つで構築されている.構造物表面の水の流動解析は,室内実験と再現解析による結果より,傾斜や表面の状態が一様であるのならば,適切な境界条件を与えることで,構造物表面における水の流動箇所を再現できることがわかった.コンクリート中における水分・塩分浸透解析は,冬季の表面に流れる水には塩分が含まれているとし,それ以外の季節では塩分が含まれていないとすることで,コンクリート表面近傍の塩分濃度が季節的に変動する傾向を再現できることを確認した.
実構造物における流水痕と各部位における塩分浸透の再現解析は新潟県に供用されている実橋梁を対象として行った.解析対象はRC橋であるA橋とPC橋であるB橋の2つである.実構造物の流水痕の再現解析結果より,適切な境界条件を与えると,数値解析により実橋梁の流水痕の特徴を再現でき,再現精度の向上には流動途中の障害物有無による流れの変化を適切に考慮する必要があることがわかった.構造物の各部位における塩分浸透の再現解析結果より,A橋の実測値が全体的にB橋より大きい傾向を,RC橋とPC橋におけるコンクリートのW/Cの差異を考慮することで再現できることがわかった.しかし,構造物の各部位における塩分浸透量の違いの再現精度はまだ十分ではないことがいえ,再現精度の高精度化には構造物表面の水の流動に伴う塩分の分配,再分配を定量的に評価する必要があると考えられる.

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