武田 健太

塩害劣化したプレテンション桁の解析的耐力評価手法の検討

丸山 久一 , 田中 泰司

 日本海沿岸部に存在するコンクリート構造物には,塩害による鋼材腐食が生じており,残存性能評価が必要なものが多くなっている.鋼材腐食を生じたコンクリート構造物の耐荷性能の低下を評価する研究は,RC構造物については精力的に行われているが,PC構造物については少数にとどまっているのが現状である.そこで本研究では,日本海沿岸部で約35年間塩害環境下に曝され,鋼材腐食が生じたプレテンション式PC橋桁に対して行われた載荷試験結果を検討対象として,有限要素解析による耐力評価手法の検討を行った.
 まず,実橋梁の載荷試験後にはつり出されたPC鋼材の腐食量測定結果をもとに,有限要素解析による再現解析を実施した.本研究の検討対象とした実橋梁は,塩害による鋼材腐食が進行し,破断・消失していた箇所が多数見られたため,この影響を解析上で考慮するために,鋼材残存箇所を直接再現した.また,PC鋼材の応力−ひずみ関係に,PC鋼材の局部腐食による機械的性質の低下を適切に考慮したモデルを用いた.その結果,試験体の破壊状況や耐荷性能を高精度で再現可能であることが示された.
 次に,橋桁内部のひび割れ進展状況から,PC鋼材の残存箇所を推定し,有限要素解析による耐力評価を行った.PC鋼材の残存箇所を推定する際,ひび割れ発生箇所のPC鋼材には腐食が生じるものとした.その結果,ひび割れ位置から骨材寸法分の範囲内にあるPC鋼材も腐食すると仮定すると,解析値は実験値と同様となる傾向が見られたことから,耐荷性能を比較的高精度で評価できることが示された.
 最後に,橋桁外観のひび割れ状況から内部のひび割れ分布を推定し,PC鋼材の残存箇所を推定し,有限要素解析による耐力評価を行った.その結果,解析値は実験値を過小評価する傾向がみられた.その原因は,PC鋼材の腐食判定方法が厳しいためであることが,解析上の破壊断面におけるPC鋼材本数の集計結果から確認された.このように,外観のひび割れ状況からだけでは,内部のひび割れ状況をこれ以上精度良く推定することは困難であり,構造性能を推定する場合には,安全側の評価をせざるを得ないことが改めて確認された.
 今後の課題として,本研究で得られた知見の適用範囲は,細径のPC鋼材を有するプレテンション式橋桁のみに限定されるため,鋼材径が大きなものを有する橋桁や,ポストテンション式橋桁の場合には,別途の検討が必要であることが明らかとなった.

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