Pham Ngoc Vinh

軸方向力を受ける炭素繊維シート接着鋼板に関する研究

宮下 剛

鋼構造物は腐食により性能の低下が生じる.力学性能を回復させるための補修・補強では,ボルトや溶接による当て板工法や部材交換が主として行なわれているものの,ボルト孔による断面欠損や溶接入熱による熱影響等の問題が生じる.そのため,腐食損傷を応急的に処置する方法として,より合理的かつ効果的な補修・補強工法が強く求められている.このような中で,軽量,高強度と言った特徴を有する炭素繊維シート(CFRP)接着工法が注目されている.
本研究では,トラス橋などの軸力部材に対する補修を対象としたCFRPによる補修・補強の開発を進めるための基礎研究を行った.この部位にCFRPを接着する工法を適用する場合,終局時に圧縮力作用下で座屈変形に追従できず,CFRPが剥離することが懸念される.そのために,CFRPによる鋼構造部材の圧縮補強への適用性に関する研究として,積層鋼板の一軸圧縮試験を実施した.実験結果から積層鋼板の弾性座屈荷重を正確に評価するまで,積層鋼板のたわみ曲線を任意に仮定できるために,Rayleigh-Ritz法を用いる.そして,CFRPによる補修・補強効果の検討を行う.
Rayleigh-Ritz法で積層鋼板の座屈荷重を評価した結果、ずらし量を10mm設けた試験体以外は全ケースの耐力荷重は概ね安全側で評価されている.特に少層のCFRPを接着されたケースでは安全側で約5.0%以内良好な予測精度が得られた.また,端部ずらし量10mmの場合,全ケースの評価誤差は危険側で-40%以内となった.理由としては端部ずらし量10mmの試験体はCFRP積層側で座屈が生じているため,最大荷重は計測した座屈荷重より小さくなっていると考えられる.そして、積層数が同じでも,端部ずらし量25mmのケースではずらし量10mmのケースよりも大きな補強効果が得られた.
さらに、本研究では欠損分の引張剛性で補修する方法を用いた従来炭素繊維シート接着切欠き鋼板の引張試験を実施することで,補強される切欠き鋼板の欠損部の耐荷力は健全部以上となることを確認した.そして,積層切欠き鋼板の引張試験で,欠損分の引張剛性で補修する方法では健全まで回復しないが,欠損分の引張剛性の残存率の逆数倍の引張剛性を有するシートで補修する方法では欠損部全区間において,健全部以下の応力度になることを確認できた.また,ストランドシート接着切欠き鋼板では,テーパーを設けることで,欠損端部での垂直応力とせん断応力が緩和する効果があるだけでなく,剥離が発生する荷重が向上することを確認できた.

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