白石卓也

津波被害を受けた橋梁の調査と波力・抵抗力の評価

丸山久一

2011年3月11日に発生した東日本大震災では,東北から関東にかけて甚大な被害が生じた.今回の地震による橋梁被害の最大の特徴は,津波による流失,落橋,破壊が生じたことである.しかし,被災地域が岩手県〜千葉県と広大であったため発災から数ヶ月経てもなお,津波被害の全容が掴みきれていない状況であった.そこで本研究では,津波による橋梁被害の危険度の判定ができるようにすることを最終目標として橋梁の津波被害の全容を把握し,津波によって橋梁に作用する波力の概要を検討するために被害橋梁の全数調査を行うこととした.
まず,衛星写真上から橋梁被害の概要を把握した.次に,現地調査を行い,被害状況の確認と橋梁の寸法の計測を行った.調査の結果,被害橋梁の数は浸水域内にある橋梁で252橋ということが判明した.三陸海岸全域,宮城県亘理町〜福島県大熊町で被害が多く,これらの地域は浸水高さが比較的大きかった.対照的に,仙台市や,石巻市,いわき市などの平野部の浸水高さが低い地域は被害も少ない結果となった.
得られたデータを集計し,流出した橋と流失しなかった橋の特徴や共通点について検討を行った.また,津波波力の推定および被害の有無の判別のための照査式の構築を目標とし,現地調査結果を用いて統計的な分析を行った.まず,幸左式を用い,流速を一定とした場合の適用性を確認したが,桁の抵抗力の評価だけでは危険度判定が予測できないことが判明した.そこで,分析橋梁の選別と流速の考慮を行った.揚力の作用が卓越する環境にある橋梁を除外し,橋梁ごとの浸水深を適用することによって流速を仮定した.この条件からさらに,T桁に対する浮力の考慮の仕方,ガードレール,ガードパイプに対する考慮の仕方を踏まえ,桁移動に対する安全率のヒストグラムを作成した.その結果,津波流速を簡易的にであっても考慮することで幸左式によって津波による被害の有無をある程度説明可能となることが示された.
最後に抗力による回転移動による被害の可能性について分析を行った.その結果,抗力が卓越するような場合には,ほとんどの橋梁で回転移動による被害は生じず,その前に水平移動による被害が生じることが判明した.これらの検討を通してもなお,危険度が高いと判定された橋梁で被害が生じなかった橋梁が多数存在していた.このように被害予測精度は現段階では低いと言わざるを得ないので,今後,流速をできる限り正確に見積もったうえで,幸左式の適用性を再度検証することが必要である.

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