森 貴正

津波外力を受けて移動する物体の計算法の提案

細山田 得三

 津波による波力は大変大きく、船舶や家屋などの物体を移動させ、大きな被害を発生させる.2011年の東日本大震災は日中に発生した地震であり,様々な動画記録機器が一般化している現在では,その地震による津波の様子が数多く記録されている.また,その様子は動画掲載サイトなどで見ることができ,津波によって移動する家屋,船舶などが目撃されている.
 津波に関する研究は数多くされており,特に2004年のスマトラ島沖地震以降,実験や数値解析など様々な研究が行われている.例えば津波の漂流物(船舶やコンテナ,木材)の挙動の研究や構造物(橋桁など)に対しての津波波力の検討などの研究が挙げられる.しかし,漂流物の挙動に関する研究では,漂流物に作用する津波力を求めて浮遊挙動を計算する簡易的なものが多く,漂流物の移動に伴う波浪場への影響は考慮されていない.また,複数の漂流物での計算はあまり行われていない.漂流物の衝突力や津波外力の計算の検討などについては,構造物として静止している場合が多い.
 従って本研究では,移動している物体を剛体の並進運動と回転運動の合成とみなして,津波を外力として移動する物体の数値計算のアルゴリズムを開発した.また,複数の物体でも移動計算を行えるよう考慮している.並進2方向と重心回りの回転という3自由度の剛体運動と考えた.外力は,津波外力(2方向)と重心まわりのトルクである.ただし,物体の法線方向の圧力だけでなく,接線方向のせん断力も考慮されている.また,物体の移動に伴う流体(海水)への線流量の発生条件も含まれている.
 その結果,津波外力によって移動,回転する物体の計算をアニメーションによって再現することができた.港湾基準式である谷本式での津波波力の計算結果と本研究で行った波力の計算結果は,1.8倍ほど谷本式での計算の方が大きくなった.谷本式は港湾施設の安全性の評価などに用いられており,波力は安全側に計算されていると考えられる.また,波力が変動する時間と物体が移動する時間も一致していたため,本研究の計算結果はある程度信頼できるものと思われる.
 本研究により,津波外力によって移動する物体の計算法の一つの道筋をつくることができたが,浮力や揚圧力,物体の衝突などが考慮されていない点が今後の課題である.

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