藤武 麻衣

搬出入貨物に着目した首都圏製造業の事業所立地選択モデルの構築

佐野 可寸志

本研究の目的は、東京都市圏に立地する製造業事業所の立地選択行動をモデル化し、その立地要因を明らかにすることである。具体的には、第4回物資流動調査のうち企業意向調査から因子分析及び共分散構造分析を行うことで、立地主体の意識データから立地要因を明らかにし、事業所機能調査から事業所立地選択モデルを構築することで、立地に関して重視する項目や推定結果から得られる土地効用を明らかにする。
因子分析の結果、立地に関して重視する項目の意識データから「事業資源」「空港・港湾」「取引先アクセス」「道路」の4因子を抽出した。この結果をもとに共分散構造分析を行い、小規模事業所は製造業全体の平均よりもやや「取引先アクセス」を重視することや、東京都に立地する事業所は「取引先アクセス」の影響力が大きく向上することに対し、「道路」や「事業資源」への評価が低下することを明らかにした。
事業所選択モデルの構築には多項ロジットモデルを適用した。選択肢は東京都市圏の基準地域メッシュである15,230ゾーンのうち、製造業事業所立地実績のある4,398ゾーンである。大量の選択肢を取り扱う上での諸問題を解決するために、実績位置からの距離帯別選択肢抽出を行い選択肢部分集合によるモデル推定とした。ゾーン変数は因子分析の結果から検討した他、搬出入貨物情報の整理を通じて事業所変数である「輸送コスト」変数を作成し、「輸送コスト」の有無によって事業所立地選択モデルの比較検討を行った。その結果、「輸送コスト」変数の信頼性の高さと事業所立地選択モデルの妥当性の向上を確認した。軽雑系製造業は人口が多く地価の高い地域への立地ニーズが高いが、金属製品製造業は周辺人口が少なく道路整備が不十分であっても地価の安い地域への立地ニーズが高い等、業種による立地要因の差を明らかにした。ただし、事業所立地選択モデルのパラメータから立地効用を推定して首都圏15,230ゾーンに拡張した結果、各業種の採択変数の差は顕著ではなく、立地効用の高いゾーンは都市部に集中した。都市部の地価上昇によるトレードオフよりも、人口や取引先の集積効果が立地選択に大きな影響を与えている。地方の場合は高規格道路周辺に高い効用の地域が集中しており、圏央道や外環道等の建設中の高速道路の完成によって周辺地域の立地需要増加が見込まれる。

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