大熊 崇司

水文データによる水収支解析と水文年に関する考察

陸 旻皎

水文データを扱う際, 流域内の水収支の傾向把握は重要であり, 水収支方程式はその基本となる. 水収支方程式のt1からt2の期間を1年とすることで, 貯留量Δsの値を0に近似する. しかし, 通常のカレンダー年の通り1月1日を開始期とすると, 降雪地域では12月末日時点で流域内に積雪が見られる. このような地域では, 前年の積雪分の水量が計算したい年の水量分に足され, Δsが0に近づかない. そこで, 流域内が最も乾いて気候が穏やかな時期を開始期とする, 水文年を用いた集計方法が使われている.
本研究では, 流域ごとの水文年の開始期の違いを比較し, 地域的, 気候的な水文年の開始期の特徴を把握するため, 一級河川のうち15箇所, 肝属川, 遠賀川, 渡川, 那賀川, 斐伊川, 由良川, 新宮川, 狩野川, 久慈川, 庄川, 阿賀野川, 名取川, 米代川, 鵡川, 天塩川の水文年の開始期を調査した. 水文年の開始期を選定する上で, 流出高データが積雪の影響を受ける流域であるかを判定した. 雨量データと流出高データとで相関係数を算出することで判定し, その結果を基に水文年の開始期を選定する.
調査結果から, 全国の河川流域の水文年の傾向を大きく4つに分類した. 肝属川, 遠賀川, 渡川, 那賀川, 新宮川流域は, 12月から1月にかけて水文年の開始期をもち, 積雪による影響は見られない地域となった. これらの流域では, 水文年の開始期がカレンダー年の開始期とほぼ変わらないため, 水文年を用いることで水収支計算への影響はほとんどない. 狩野川, 久慈川, 名取川流域は, 2月の上旬に水文年の開始期をもち, 雪の影響は受けない傾向となった. 上の5流域同様, これらの流域についても水文年を用いることの影響はほとんど見られなかった. 斐伊川, 由良川, 庄川, 阿賀野川流域は, 10月11月に水文年の開始期をもち, 積雪による影響は庄川, 阿賀野川流域が受け, 斐伊川, 由良川流域が若干受ける結果となった. これらの地域は, 水文年を用いることによる水収支計算への影響は小さい結果となった. 積雪地域であるにもかかわらず, 水文年考慮による影響が小さい結果となった庄川, 阿賀野川流域は更なる解析が必要であり, これらの原因究明が今後の課題となった. 米代川, 鵡川, 天塩川流域は, 6月7月に水文年の開始期をもち, 積雪の影響を受ける傾向となった. これらの流域は, 水文年考慮によることで, 収支計算に良い影響を与える結果となった.

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