板戸 昌子

冬季山岳域のレーダー降水量誤評価の分析とその補正

熊倉 俊郎

気象レーダーはパルス波を発射して降水粒子で散乱される電波を受信することで降水強度を計測し戻ってくるまでの時間から距離を計測する.その後,各レーダーサイトのデータを合成した1kmメッシュ全国合成レーダーのデータが一般に使われているが,観測に起因する誤差や合成処理に起因する誤差により,地上観測に比べて降水量が少なく観測される地点がある.そこで本研究では,積雪重量計や雨量計で観測した地上降水量とレーダー降水量との比較を行い,レーダー降水量から計算可能なマイクロ波減衰の水平分布や複数レーダーデータの合成処理に起因する誤評価について分析し,レーダー観測によって得られる降水量を補正することを目的とした.2010年1月,2011年1月,2012年1月を対象期間とし,レーダー降水量は気象庁による1 kmメッシュ全国合成レーダーおよび新潟レーダーサイトの極座標エコー強度データを用いた.また,地上観測降水量は,防災科学技術研究所雪氷防災研究センターが山岳域に設置している積雪重量計および雨量計のデータと,気象庁の地域気象観測システム(AMeDAS)のデータから1時間毎に求めた.1kmメッシュ合成レーダーデータを用いて,マイクロ波の透過率τと降水強度からZ-R関係の式を用いて求めたレーダー反射因子ZradarとZobsの関係について解析したところ,透過率に対して補正過剰の傾向があることがわかった.さらにレーダー毎極座標エコー強度データを用いてマイクロ波の透過率τとZradar/Zobsの関係について解析したところ,1kmメッシュ合成レーダーデータと同様に,透過率に対して補正過剰の傾向があることがわかり,合成処理に起因する複雑な誤差要因を含まないことで,傾向が明瞭になった.またレーダー毎極座標エコー強度データを仰角が同じもの同士でグループ分けすると,同じグループ内では全データの平均的な傾きや切片がほぼ同じであるという特徴がある.そこで極座標エコー強度データを,グループ毎に近似曲線を求めて補正することにより,中央値が0となり,頻度分布の幅を狭められた.さらに,地上観測降水量のデータから降水強度毎に平均値を求めて補正することで補正前のレーダー降水量が最小で1/300であったのに対して,1/6.5から6.5倍の範囲になるという結果が得られた.今回は最も簡単な線形近似を行ったが,近似曲線をより良くフィットするものを選択することで,1kmメッシュ全国合成レーダーより良い結果が期待できる.

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