氏  名:村中 誠

論文題目:反応機構に立脚したASR膨張挙動に関する物理-化学モデルの構築

指導教員:下村 匠

近年,環境負荷への配慮など,コンクリート材料を取り巻く環境が日々変化する中で,従来の基準では適正に骨材のアルカリシリカ反応性を評価できないケースが増えている。現行の判定基準は実構造物の被害状況との相関や試験結果同士の相関により定められたものであり,本来はある限られた条件でしか使用できない。このような,時代の要請や現行試験法の課題に柔軟に対応し得る評価手法の確立を目指し,本研究では,骨材のアルカリシリカ反応性を短時間で,定量的に評価・判定する予測モデルの構築を行った。
まず本研究では,モルタルを対象に構築された修正U.F.O.モデルの,コンクリートに対する適用性を検証した。その結果,このモデルをコンクリートに対して適用できないことが示され,複数の検討課題が明らかとなった。反応性骨材の反応速度に関する検討では,反応性骨材とアルカリとの反応速度には,骨材表面積の影響があるものの,表面積比ほど大きくはないことが示された。この知見に基づき,反応性骨材とアルカリとの反応速度に関する新たなモデルを提案した。反応性骨材のアルカリ消費に関する検討では,骨材の初期アルカリ消費はアルカリイオンの骨材表面への吸着によって生じ,初期のアルカリ濃度に依存することが示された。この知見を基に,骨材の初期アルカリ消費に関する新たなモデルを提案した。アルカリイオンの拡散に関する検討では,粗骨材とアルカリとの反応を精度よく予測するために,骨材−モルタル界面におけるアルカリ濃度を拡散方程式より導く必要があることを示した。
現存する実構造物にはASRが生じているものも多く,反応が進行中の構造物も存在する。このため,ASRの進行予測技術に対する潜在的な需要は大きい。実構造物ではコンクリートのASR膨張は鉄筋や外力で拘束されるため,拘束度とASR膨張量の関係を把握する必要がある。そこで,鉄筋拘束がASRゲルに及ぼすメカニズムを新たにモデル化し,コンクリートのASR膨張量と拘束度に関して,細孔容積分布密度関数に基づく新たなモデルを提案した。
そして,これまでに提案したモデルを基に,新たなASR膨張挙動予測モデルを構築した。新たな予測モデルでは,モルタルのASR膨張挙動予測だけでなく,無拘束コンクリートおよび拘束コンクリートのASR膨張挙動予測を行うことも可能となった。しかし,膨張反応が生じるか生じないかの遷移領域では誤差が大きく,今後もモデルの改良が必要である。

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