三浦 謙介
磁歪法を用いた鋼橋の応力計測の簡易化に関する研究
長井 正嗣
鋼橋の残存耐荷力を解析的に検討する際には,鋼部材の残留応力分布を適切に設定する必要がある.しかし,既設橋梁の残留応力分布は不明な点が多く,計測により明らかにする必要がある.そこで,本研究では,残留応力を含む全応力を計測できる非破壊手法の1つである,磁歪法に着目した.
磁歪法では,計測される主応力の方向が明確でない場合,1つの計測点においてセンサを45°ずつ回転させて4回計測する必要がある(4方向測定).このため,磁歪法による応力計測では,計測に時間がかかり,多大な労力が必要とされる.しかし,主応力方向が明確な場合には,4方向のうち主応力方向の1成分だけを計測するだけでよい(1方向測定).そこで,本研究では,残留応力の分布形状と主応力方向が事前にある程度明らかとなっている鋼部材を対象として,磁歪法による応力計測の簡易化を目的する.
本研究で対象とする鋼部材は,箱形断面部材とする.ここでは,残留応力は部材軸方向に卓越し,また,幅厚比が20以上となるとき,残留応力の分布形状が台形になることが知られている.このため,1方向測定が可能であり,さらに,分布形状の対称性を仮定すると,計測点数を最低3点まで減少させることが可能となる.
そこで,撤去された鋼トラス橋の箱形断面斜材を対象に,機械式切断法と磁歪法の簡易手法による,残留応力計測を実施した.磁歪法の簡易手法では,部材中央部1点と端部から最大圧縮残留応力が生じるまでの任意の2点の計3点を計測した.機械式切断法と簡易手法で得られた残留応力分布は良好な一致を示し,簡易手法の適用性が示された.
しかし,簡易手法の適用では,主応力が部材軸方向に卓越することが前提条件となる.そこで,仮定した主応力角の誤差が計測結果に与える影響について感度解析を実施した.計測された主応力角に対して±30°の誤差を考慮したところ,±10°の範囲に収まれば,簡易手法の誤差が磁歪法の計測誤差とされる20MPa以下となることを確認した.よって,簡易手法の適用条件として,部材軸方向に対する主応力角の誤差が±10°以内となる条件を課す.このチェックは,簡易手法の各計測点で4方向計測を実施すれば良い.
簡易手法の適用性をさらに検証するために,他の撤去橋梁の箱形断面部材に対して,適用を試みた.本部材では,簡易手法の適用条件を満足していたことから,機械式切断法と簡易手法の残留応力分布形状は良好な一致を示した.今後の課題は,橋梁形式として広く採用されている鈑桁橋への適用を想定し, I型断面部材にも適用可能な磁歪法の簡易計測手法を開発することである.
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