稲葉 将吾

橋梁の局部的な損傷検出に向けた振動・波動モニタリングに関する研究

長井 正嗣

 橋梁の維持管理手法として,損傷と動特性の関係に着目した振動モニタリングの研究が積極的に行われているが,橋梁の形式や損傷の種類によっては,損傷の検出が困難な場合もある.
 そこで,本研究では橋梁全体の動特性から検出することが困難な,局部的な損傷を検出する振動・波動モニタリング方法について検討することを目的とした.本研究では,PC橋におけるPCケーブルの破断と,斜張橋ケーブルの損傷に着目した.
 PCケーブル破断の検出に向けた方法として,PCケーブルが破断する際に発生する音に着目し,コンクリートマイクを用いた音響システムを開発することとした.そして,実橋梁での音響モニタリングに向けた基礎検討を行った.その結果を以下に示す.
・妙高大橋での音響計測を実施した結果,車両走行音にはタイヤと路面の摩擦による音と,ジョイント部を車両が通過する際の音が含まれていることが分かり,その周波数数成分は前者が730〜750Hz,後者が2600Hz付近に分布することが確認でされた.
・PC鋼材破断音の特性把握を目的として,PC鋼材を電食により破断させ,破断時の音を計測する実験を実施した.その結果,同条件下で発生するPC鋼材の破断音には再現性があることが確認された.破断音のフーリエスペクトルでは,320Hz,626Hz,721Hz,1030Hz付近の周波数成分が卓越した.これは,鋼材破断時の横振動に起因するものと考えられる.今後,鋼材の張力や寸法をパラメータとして実験を行い,周波数成分の定量把握を進める.
・PCケーブル破断位置の同定を目的として,2台のコンクリートマイクでRC梁の打音位置を逆解析する屋内実験を実施した.ここでは,信号の立ち上がりの時間差とコンクリート中を伝播する音の理論速度から,音の発生位置を算出した.その結果,位置の同定精度は0.050m〜0.135mであった.同定精度の向上には,コンクリートの物性把握が必要である.
 斜張橋のケーブルの損傷検出では,不可視光を用いた新しいLDVを用いてケーブルの振動計測を実施し,動特性変化に着目することした.また,ケーブルの有限要素モデルを作成して固有値解析を実施し,ケーブルの損傷と動特性の関係について検討した.その結果を以下に示す.
・LDVを用いてケーブルの振動計測を実施した結果,計測作業を迅速化することができた.また.計測可能距離を超える超長距離計測を実施した結果,計測距離が310mのケーブルまで,ノイズの多い時刻歴波形のフーリエ解析に平均化を用いることで固有振動数を同定することができた.
・ケーブルの固有値解析を実施し,境界条件と温度変化の影響を検討した結果,温度変化による固有振動数の変化が大きく,20℃の温度変化で約10%の固有振動数変化が確認できた.

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