永沢 薫

東北地方太平洋沖地震で発生した津波の伝播特性について

犬飼 直之

平成23年3月11日に東北地方太平洋沖地震が発生した.この地震により発生した津波は,従来の想定をはるかに超えるものであった.今後このような巨大津波が発生した際に,防災対策を正確に構築していくためにも,まず東北地方太平洋沖地震によって発生した津波の伝播特性を知る必要がある.そこで本研究では,東北地方太平洋沖地震の津波について,小領域と大領域に分けて数値計算をおこない,大領域では津波が発生してから陸地付近へどのように近づくかを把握し,小領域では陸地へどのように伝播・遡上していったのかを把握することを試みた.
大領域(東北地方太平洋沖)の計算では,地盤変位量計算に断層パラメータを用いて推算するOkada(1992)の手法で計算をおこなった.小領域(岩手県北部沿岸域)の計算では,GPS波浪計で観測された波形を用いて計算をおこない,調査による各地点での津波痕跡高と比較をおこなった.計算に使用したモデルは,津波伝播領域が南北に長いことを考慮し,球面座標系で作成された平面2次元の運動方程式および連続式を陽的に差分したもので計算をおこなった.
大領域では,計算結果とNOWPHAS(全国港湾海洋波浪情報網)のGPS波浪計による観測値の波高を比較したところ,60分までは比較的よく再現することができた.津波発生から1分ごとの津波の水位分布図より,北海道の釧路や千葉県の銚子には微小の引き波後に,大きな押し波が到達している様子が分かった.
小領域では,犬飼らの調査結果と計算結果の遡上高を比較したところ,観測値に近い値となっており津波の再現性が高いと考えられる.この結果を用いて津波の挙動や高い遡上痕跡や家屋破壊が多かった場所での流速を確認した.津波発生から10秒ごとの津波の水位分布図より, 38mの遡上痕が確認された野田村米田地区の周辺がどのようにして波高が高くなったのかを把握することができた.また,家屋流出や堤防の破壊などの被害があった場所での流速と水位を確認したところ,流速や水位の違いにより久慈市では浸水被害,野田村では防波堤破壊や家屋流出などの壊滅的な被害という差が生じたことを定量的に把握することができた.

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