鈴木 達也

10分間アメダスデータを用いた風向・風速の分析−放射能汚染の拡散予想−

宮木 康幸

2011年3月11日、我が国で東日本大震災が発生した。その被害は広域に及び、福島第一原発も被災した。 福島第一原発から漏れ出した放射性物質は、福島全域に拡散し、その影響が懸念されている。さらに、事前の予想をしていなかった市町村では、その対応が後手に回っていたことは否めない。実際の事故に際してはSPEEDIによる放射能拡散予想が利用されることはいうまでもないが、本研究では長年の実績のあるアメダス気象情報を利用すれば原発周辺の市町村が事故への準備・心構えをしておくことが可能ではないかと考えた。そこで、アメダス10分データを用いて、福島第一原発周辺を中心とした福島県の風の特徴を把握し、その特徴と2011年3月の放射能汚染状況を比較し、風向を用いての放射能汚染拡散予想の妥当性を検討する。次に、妥当であれば同様の手法で新潟県柏崎原発の場合における放射能拡散予測を行う。ただし、放射能拡散予想は、雨や地形などは考慮せず、風によるものだけであり、高層の風の影響も考慮していないことを言い添えておく。
まず、福島第一原発周辺での風向・風速の解析を行った。その結果、原発周辺の風向は年毎の有意差はほとんどなく、過去のアメダスデータを用いて3月11日以降の汚染拡散を予想出来ると判断した。この結果を踏まえて、福島第一原発に最も近い広野町アメダス観測地点で卓越風(西北西・東南からの風)が吹いた時に、同時刻の福島県内のすべての観測地点ではどの方向から風が吹いたかを地図上に示した。その結果、観測地点の間隔が大きいことと風向と完全に一致しているわけではないという問題点は存在するが、実際の放射能汚染と福島県全域の風向を重ねると、風向と大きくずれた分布はしていないことが分かる。従って、風向を用いた予想は周辺市町村の原発事故への心構えとしては十分、有用だと考える。
次に、新潟県柏崎原発の放射能拡散予想を行った。まず、原発周辺の風向をもとに各観測地点の風向を出す手法が統計的に有意であるのかの確認を行うため、柏崎市アメダス観測地点で卓越風(北北西・南南東からの風)が吹いた時、同時刻の新潟県内のすべての観測地点で吹く風の方向が年毎で一致しているかを調べた。その結果、それぞれの観測地点で有意差が出るのは平均して10年に1回程度だということが分かった。つまり年毎の差は少ないといえる。この結果を踏まえ、放射能拡散予測を行うと、どちらの卓越風が吹いても下越へは拡散しにくく、中越に汚染が集中しやすいこと。上越に汚染への拡散が予想されることが分かった。
今後の課題としては、風速を用いた風向データの重みづけや、観測地点間の時間差を導入が必要であると考える。

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