小林 岳

GPSブイを用いた離岸流等の観測における風況の影響についての検討

入江 博樹

離岸流は、海水浴場などでの水難事故の要因にもなっているが、流れの全体像を把握することは難しい。また、海上を浮遊し海岸に漂着するゴミの問題を解決するためには、潮流等の流れに加えて風況を考慮する必要がある。本研究では、沿岸域や閉鎖海域などの浅海域での流れをラグランジュ的に計測する方法として、小型GPSフロートを利用して風向や風速などの風況を考慮した漂流状況の観測手法について検討した。海上漂流物が受ける風の影響を推定することで、風況を考慮した潮汐流の動向をより詳細に知ることができる。現在、海上保安庁で利用されている漂流物の速度は3つの成分として、(1)風が漂流物に直接作用する速度成分、(2)海水面が風の影響を受けて流れる吹送流による速度成分、(3)潮汐流による速度成分を用いている。本研究ではこの近似値に実際の実験状況下での風況の値を用いてシミュレーションを行い、小型GPSフロートが風況の影響について検討した。この海上実験に先立ち、昨年度に作成した小型GPSフロートの操作方法を改善した。密閉容器内部のGPSロガーのスイッチの操作に手間がかかるという課題があったが、磁気リードスイッチを使用して、密閉容器の外部から磁力によってスイッチの操作を可能にした。実際の海上での漂流物として、異なる形状物を用いて実験し、GPS小型フロートで測定した軌跡と風況を考慮した近似式のシミュレーション結果を比較した。その結果、風速10m以下の風況でのシミュレーション結果は、秒速数m程度の離岸流の測定においては、風況の影響を無視できることがわかった。次に漂流ゴミが、潮流と風況の影響でどのような漂流をするかを調べた。熊本県の八代海での漂流実験では風況の影響を受けやすい漂流ゴミとして、発泡スチロール箱とペットボトルを入れたビニール袋を実験対象とした。2つの形状が異なる漂流物に小型GPSフロートを取り付けて軌跡を観測し、2つの漂流物の実際の速度差とシミュレーションでの速度差を比較した。近似式に必要な断面積は、発泡スチロールでは対角線での断面とし、ビニール袋は水面上の断面を三角形として推定した。小型GPSフロートでの測定値は、発泡スチロールよりもビニール袋の速度差が大きくなった。これは、シミュレーションの結果では逆の結果となった。この原因として、実験時の風況の測定精度、断面形状の与え方、近似式の使用条件の妥当性、密度流の効果が考えられた。詳細に漂流物の漂流特性の近似値が求めるためには、漂流実験時の風況を詳細に記録することの重要性を示唆した。

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