伊阪陵代

断面修復後に生じた鉄筋コンクリート部材の力学性能

下村匠

鉄筋コンクリート構造物は社会基盤を支える重要な構造物に用いられ,安全性,使用性,美観などの性能が要求される。これらの性能は,構造物の供用期間中において常に要求される水準以上に保たれている必要がある。しかし実環境下での鉄筋コンクリート構造物は,環境条件や使用条件により構造物を構成する材料が変質・劣化することにより,時間経過に伴い構造物の性能が低下していく。とくに海洋環境下にある鉄筋コンクリート構造物は,塩化物イオンをはじめとする劣化因子が容易に供給されるため,塩害に起因する鉄筋腐食が深刻な問題となっている。昨年度に実構造物の研究として行った,能生川橋は海岸から約100 mの地点に位置していたので,冬季には常時激しい飛来塩分にさらされていた。実構造物として,約80年供用されていた能生川橋は,鉄筋の重ね継ぎ手を使用,コンクリートのはつり,モルタルによる断面修復を含む,大規模な補修が行われており,塩害による影響以外にその他の影響も因子となっていた。これら因子がどの程度構造性能低下に影響を及ぼすのか,十分に検討されてはいない。
また,現状において既存構造物の維持管理は,現実に著しい劣化が進行した構造物を対象としなければならない場合もある.以上のことから,劣化後の構造性能を評価することは重要な研究課題の一つであり,能生川橋の影響因子を明確化することは必要なことである。
能生川橋を模擬した試験を行った。複数の劣化要因を一つずつ試験要因として与えることで能生川橋の載荷試験における劣化のメカニズムの要素を一つずつ消すことで,メカニズムを明らかにした。鉄筋の重ね継手を有する電食試験だけを行った供試体の載荷試験結果より,鉄筋重ね継手部が15%程度腐食することで,重ね継手部の定着が損失し,鉄筋の引張力を伝達しないことが示された。鉄筋重ね継手を有する再劣化した供試体の載荷試験結果より,再劣化により重ね継手部の定着が損失し,鉄筋の引張力を伝達しないことが確認できた。鉄筋重ね継手を有する電食試験を行った供試体は断面修復することで,鉄筋腐食により損失した定着を,再び確保でき鉄筋の引張力を伝達することが可能になることが示された。能生川橋載荷試験結果との検討結果から,事後解析後に判明した2本の重ね継手が存在する鉄筋の定着が切れていたことが確認できた。本実験における鉄筋重ね継手を有する再劣化した供試体と能生川橋載荷試験の外桁の結果から再劣化した供試体の再現性が確認できた。


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