氏  名:永田賢康

論文題目:厚板の残留応力が鋼桁の耐荷力に与える影響に関する研究

指導教員:長井正嗣

 近年,様々な分野で極厚鋼板が構造用鋼材として使用されるようになった.土木分野では,1996年の道路橋示方書の改訂により,鋼橋における板厚の適用範囲が最大100mmまで拡大され,少数主桁橋梁などの合理化設計を背景として,板厚が40mm以上の極厚フランジを有する鋼桁橋が多く架設されている.
 従来,残留応力が鋼桁の挙動に影響を与えることが知られているものの,これまでは,薄板を対象としていたため,板厚方向の残留応力分布は一定としている.一方,厚板では,圧延後の冷却過程や溶接の影響により,板厚方向に残留応力が変化すると考えられるが,実測データが少ない現状である.また,極厚鋼板の残留応力が,鋼桁の耐荷力に与える影響についても明確とはなっていない.
 そこで,本研究では,極厚鋼板を使用した鋼桁橋を対象として,以下を研究目的とする.
1) 極厚鋼板の残留応力の計測を行い,残留応力分布を把握する.
2) 極厚鋼板の残留応力が鋼桁の耐荷力に与える影響を有限要素法により解析的に把握する.
3) 極厚フランジを有する鋼桁橋の効率的な維持管理のため,磁歪法の適用性を検討する.
 以下に,各研究目的の研究方法と得られた知見を示す.
1) 極厚フランジを有するT形試験体を製作し,フランジ幅方向および溶接部直下のフランジ板厚方向に分布する溶接線方向残留応力を機械式切断法により計測した.幅方向に関しては,溶接部や端部では入熱により引張応力が導入されており,中間部では応力の自己釣り合いを満たすように圧縮応力が導入されている.板厚方向に関しては,溶接部では引張応力が導入され,フランジ外面に向けて直線的に変化している.その結果,板厚が厚く(板厚50mm以上に)なると,応力の自己釣り合いを満たすために,フランジ外面の残留応力は圧縮となる.
2) 極厚フランジを有する鋼桁橋の中間支点部を対象として有限要素モデルを作成し,極厚鋼板の残留応力が曲げ耐荷力に与える影響について検討した.ここで,極厚鋼板内部の残留応力分布として,仮定分布と実測結果を導入した.その結果,残留応力分布の相違により,初期剛性に変化が見られるものの,終局荷重に相違は見られなかった.
3) 建設が進められている極厚フランジを有する鋼桁橋において,架設工程ごとに磁歪法による応力計測を実施した.支間中央の下フランジの応力値を設計計算値と比較したところ,良好な一致を示した.磁歪法のキャリブレーション用試験片が得られない場合は検討が必要であるものの,磁歪法の維持管理に対する適用性については期待がもてる.

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