石崎 覚史

橋梁振動モニタリングのためのMEMS要素技術を利用したセンサノード開発

長井 正嗣

 近年,国内の橋梁に腐食破断が生じるなど,既設橋梁の維持管理は喫緊の課題となっている.現在,構造物にセンサを設置してモニタリングを行い,健全性を評価する構造ヘルスモニタリングが注目されている.この中で,構造物の劣化や損傷により生じる剛性や質量の変化が,動特性の変化に結びつくことから,振動モニタリングに関する研究が積極的に行われている.
 劣化や損傷による動特性の変化を把握するためには,定期的に振動計測を行う必要がある.また,局部的な損傷を検出するためには,空間的に密な計測が求められる.しかし,現在,計測点当たり数十万程度のコストを要し,また,センサを有線で接続することから,高密度計測が難しい状況にある.
 そこで,本研究では,近年の発展が目覚ましいMEMS要素技術を利用し,空間的に高密度な振動計測を実現する無線センサノードの開発を行う.まずは,橋梁の振動モニタリングに適したMEMS要素技術を選定し,センサノードの基板化を行う.そして,性能評価のために,有線タイプの高精度加速度計との比較を屋内とフィールドで行う.次に,実橋の多点振動計測に適用し,無線通信を利用した同期計測について検討する.最後に,撤去する橋梁に対して損傷を与え,振動計測を行い,損傷と動特性の関係性を把握する.
 本研究から得られた知見を以下に示す.
1.開発した無線センサノードは,安価なMEMS要素技術を用いたものであるにも関わらず,三軸加速度計のデータを200Hzでサンプリングし,±1gal以下の加速度データをMMC/SDカードに長時間記録することが可能である.
2.無線センサノードと高精度加速度計との比較試験を屋内で実施し,両者は同等の性能を有していることを確認した.また,フィールドにて,センサノードが斜張橋ケーブルの張力計測に,適用可能であることを確認した.
3.開発したセンサノードを実橋梁の多点同期計測に適用した.ここでは,ノード間の時刻同期が問題となったが,対称一次モードの周波数の正弦波を共通信号として時刻同期を行う方法を開発した.しかし,加速度振幅が小さく,また高次モードになるほど,ノード間に位相のずれがみられており,この修正に関しては今後の課題とする.
4.開発したセンサノードを用いて段階的に損傷を与えた橋梁の振動計測を行い,損傷に応じた動特性の変化を検出した.その結果,固有振動数には,逆対称一次モードで大きな低下が見られ,振動モード形には損傷に対する形状の変化は見られなかった.このメカニズムの解明については今後の課題とする.

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