松本陽介
消雪井戸への雨水注入による地下水位・水質の変動
豊田浩史
本研究室では,迅速かつ経済的な雨水流出量の低減策として,かつ地下水涵養や地盤沈下の防止にも繋がる手法として,「消雪井戸を利用した雨水の地下水涵養」を提案した.しかしながら,消雪井戸を利用した浸水対策は全国的に前例が無い.そのため,本手法を実用化するためには,消雪井戸を用いた雨水の直接注水に伴う地下水への影響を検証するとともに,内水氾濫への適用として,雨水流出量の低減効果を定量的に示す必要性がある.このような背景のもと,本研究では,本手法の実用化が望まれている新潟県見附市今町地区の雨水の水質や地下水の水位・水質を調査し,消雪井戸への雨水注水試験より,該当地区の雨水を消雪井戸より地下水へと涵養することによって生じる地下水位や水質への影響を検証した.また,調査・実験により得られた知見から,今町地区の中で特に浸水被害の大きい地域を対象として,本手法を適用した際の雨水流出量の低減効果を検討した.以下に,本研究より得られた知見を示す.
1.今町地区で採取した降雨および地下水は,地下水環境基準を満たしており,汚染物質が基準値以上に含まれていないことが明らかとなった.
2.注水井戸では,屋根で採取した雨水の注水から1〜2日後に井戸内で鉄バクテリアや酸化鉄が発生し,濁度や浮遊物質量が上昇することが分かった.しかしながら,鉄バクテリアや酸化鉄の発生に伴うストレーナーの目詰まりは,揚水を行う事で除去できる可能性が高いことが既往の文献に述べられている.
3.注水井戸で目詰まり物質が発生したこと以外は,注水に伴う地下水質の悪化は見られなかった.
4.雨水の注水試験結果より,消雪井戸に注水可能な水量について,地下水位が低い春季から地下水位が高い秋季にわけて試算を行った.
5.約100m程度の間隔で設置されている複数の消雪井戸に同時に注水を行った場合,各井戸の水位上昇の影響を他の井戸が受け,消雪井戸1本あたりに注水可能な流量が減少する効果を組み込んだ簡易推定法を提案した.
6.今町地区で最も浸水被害の多い地域(1.65ha)を対象として計算した,今町地区の計画降雨強度と同程度の降雨に対して消雪井戸3本を利用して雨水を注水した場合の雨水流出量低減効果は,現状の雨水処理施設では処理しきれない雨水流出量に対して春季で8割程度,秋季で3割程度あることが分かった.
これら,得られた知見より,本手法は,雨水採取方法に問題がなければ,地下水汚染が生じる可能性が低く,内水氾濫を防ぐ効果が期待できるといえる.
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