笹田俊之

日本海沿岸域へのエチゼンクラゲの回遊機構把握

細山田得三,犬飼直之

近年,魚の乱獲や地球温暖化といった海洋の環境の変化により,クラゲ類の異常な増加が起きている.その中でもエチゼンクラゲは2002年をはじめとして大量に発生し,6〜7月頃から対馬暖流域において目撃され,日本海域の定置網等の漁業に大きな被害を与えた.大きいものでは傘が2メートル,重さ200キログラムにも及び,巨大な群が漁網に充満するなど,底曵き網や定置網といった,クラゲ漁を目的としない漁業を著しく妨害している.また,エチゼンクラゲの毒により,エチゼンクラゲと一緒に捕らえられた本来の漁獲の目的となる魚介類の商品価値を下げてしまう被害も出ている.しかし,エチゼンクラゲが大量発生する原因について,地球温暖化や魚などの乱獲による天敵の排除,沿岸域の開発が影響しているのではないかという曖昧な答えしか導き出せていないのが現状である.さらに,発生原因だけでなく生態についても解明されていない点が多いため,原因究明や対策が困難となっている.既往の研究では,黄海及び東シナ海でのエチゼンクラゲの輸送に関する数値実験を行っている.冷泉らは,対馬暖流域の入り口までの挙動を解析しているが,以後すなわち日本海でのエチゼンクラゲの挙動を解析しているものはほとんどない.また,観測情報によるエチゼンクラゲの輸送ルートは概ね判明しているが,建設工学の観点からアプローチを図った研究は少なく十分な成果が得られているとは言い難い.そこで本研究では,建設工学の観点から数値シミュレーションを行い,エチゼンクラゲの日本海沿岸域への回遊機構を把握することを目的として,日本近海の流動機構を再現し,エチゼンクラゲをトレーサーとして見立て解析を行った結果,以下の結論を得た.
数値シミュレーションによりエチゼンクラゲの対馬海域から日本海沿岸域への来遊を再現する事が出来た.日本海沖合では,沖合の漁業の頻度が少なく,目撃情報があまり得られないため再現性を確認することができなかったが,日本海沿岸域においては,多少のばらつきを考慮してもエチゼンクラゲの日本海沿岸域への来遊を定性的に再現することができた.これにより,エチゼンクラゲの来遊には潮汐流よりも海流及び吹送流の影響を大きく受けていることが確認できた.本研究から,数値シミュレーションによるエチゼンクラゲの追跡の可能性を示すことができた.

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