大舘 隼一

鋼矢板を用いた河川堤防の強化対策工法の有用性評価に関する検討

大塚 悟 教授

近年,集中豪雨や台風による豪雨の増加により,斜面の地すべりや河川堤防の破堤などの自然災害が全国各地で多数発生している.そのため,斜面崩壊や河川堤防の破堤に対する防災対策は急務の課題となっている.
河川堤防は越流に弱く,一度破堤すれば短時間で大きな被害が発生してしまう.そのため,堤防の越流対策が必要とされている.越流だけであれば,堤体高さを上げることにより破堤を防ぐ事はできるが,費用対効果を考慮すると,その高さには限界がある.また,堤体の拡幅が不可能な場合,堤体高さを上げるにつれ,法面勾配が急になり,安定性の低下や浸透による崩壊が発生する可能性が高まる.これに対し,堤体高さを上げずに,堤体を強化する方法として,矢板を設置した強化堤体が考案されている.
既往の研究では,矢板を設置したケースと無体策のケースの2ケースの浸透・越流模型実験が行われており,その有用性が検証されている.また,その再現性を確認するため浸透流解析が行われている.その結果,無対策の実験ケースでは,飽和不飽和浸透流解析と剛塑性有限要素法を連成させた解析手法を用い,堤体内部の間隙水圧分布や飽和度分布などの定量的な評価が可能であれば,精度良く浸透破壊現象を表現することが可能であることが確認されている.しかし,鋼矢板を用いた強化堤体に対する実験ケースについて浸透流解析を行ったところ,3次元的に水の流れを考慮しなければ実験結果の値と乖離がある結果となった.また,無対策の実験ケースと鋼矢板を設置した実験ケースを比較した結果,矢板を設置したケースで矢板間と矢板を通過した裏法側の水位との間に大きな差があり,これでは,実現象として,ボイリングが起こる可能性が考えられる.そのため,矢板の透水性を向上させる必要があることが分かった.
そこで本研究では,矢板に透水性を持たせた透水性矢板を考案し,浸透・越流模型実験を行い,その有用性を検証する.また,3次元の浸透流解析を行い,実験結果を再現できるかについて確認することを目的とする.
実験と解析を行った結果(1)〜(4)に示すことが確認できた.(1)実験および解析結果から,浸透・越流に対してバランスよく対応できる穴あき ? = 5mmタイプが最も有用性が高いと判断した.(2)浸透に対する強度を上げるには,透水面積を高くする必要がある.(3)越流に対する強度を上げるには,部分部分の透水面積を低くし,砂が排出されないようにする.もしくは,越流で基礎地盤が削られても大丈夫な深い位置で排水を行うようにする必要がある.(4)3次元で浸透流解析を行った結果,実験値と解析値がほぼ一致したため,矢板を用いた強化堤体の浸透特性を十分に表現できる.

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