児玉 寛希

固定資産税収を考慮した市街地整備の在り方に関する研究

中出 文平・樋口 秀・松川 寿也

近年の少子高齢化・長期不況の中では、自治体税収も減少傾向にあり、債務も増加の一途をたどっている。将来に向けた自主財源の確保は、持続的な都市計画を行うためにも重要な課題である。
自主財源の一つである固定資産税は、市税収入の半分近くを占めており、自治体の貴重な財源となっている。しかし、中心市街地では、この固定資産税収が減少し続けており、その影響は周辺の既成市街地全体に及んでいる。さらに、中心市街地及び周辺既成市街地の減少が、都市全体の税収減に結びついており、今後大きな問題となることが予想される。そこで、本研究では、長岡市を対象とした既往研究で得られた事象の普遍性を他都市で検討し、固定資産税収と都市的要因の関係を把握する事で、今後の市街地整備の在り方に関して固定資産税の視点から提言を行う事を目的としている。
はじめに詳細対象都市の選定及び長岡市の位置づけを把握する事を目的に、地方都市98市を対象とし、都市のコンパクト性を有する都市は、固定資産税収面でも優位に働くという仮説の元でDID指標による定量的分類を行った。次に、本研究で最も重要となる固定資産税データの提供可能な自治体の把握及び財政と市街地整備について行政担当者がどのように考えているか意向を把握するため、98市の都市計画・固定資産税の各担当課へアンケートを行った。
そして、都市の定量的分類とアンケートより導き出した松本市・上田市・高知市を対象に長岡市を加えた、計4市の固定資産税収データの空間化及び定量化を行った。また、各市の都市的状況を押さえるために各市の担当者へのヒアリング調査と、現地調査を実施した。その結果、長岡市と同様に中心市街地及びその周辺での固定資産税収の減少が著しい事を把握した。
次に4市の実情を踏まえた上で、固定資産税収に関連すると推測できる人口密度・実質容積率・宅地率など都市の集積度に関する指標を用いて各市の固定資産税収分布及び推移との比較を行った。その結果都市の集積度を表す指標が優位であるほど、固定資産税指標面でも優位に働く事を把握した。
さらに、市街地整備状況を比較するために、各市域を4つに市街地区分(中心市街地・既成市街地・市街化区域(用途地域)・調整区域(白地地域)に分けて固定資産税収指標の分析を行った。その結果、中心市街地衰退の影響は、家屋の建築活動にも影響を及ぼし、中心市街地内の延床面積が市域内で最も減少している事を明らかにした。
現在の人口減少社会を踏まえるとこれまでの市街地をそのまま維持する事は容易ではない。そこで、今後の市街地整備を考えた場合、中心市街地及び既成市街地内の建築活動を活発化し、土地の高度利用や都市の集積度を高めるような市街地整備が固定資産税収維持の面からも必要である事を提言した。

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