川島由香里

有機光増感剤ナノ粒子膜の作製と一重項酸素発生能の評価

高橋由紀子

和文概要

 一重項酸素は活性酸素の一種であり、電子励起した酸素分子である。一重項酸素は大気中では水中より約2 万倍長い寿命を持ち、光線力学的治療、有毒分子の光酸化分解などに役立つことがわかっている。しかし、今までの一重項酸素の利用はほとんど溶液中であり、気相中での発生法は、担体に含浸させた光増感剤に酸素ガスを流し、光照射を行うというものであった。これには試薬量の調製が困難であることや、担体自体が一重項酸素を失活させてしまうなどの問題があった。本研究室で作成された光増感剤ナノ粒子膜は、ナノ粒子分散液を作製し、メンブレンフィルター上に、厚さ数百 nm の均一な薄膜として保持することができる。本法では試薬量の調整が容易かつ、膜表面に増感剤100 % として塗布でき酸素ガスを用いずに大気条件下での一重項酸素の発生が可能となる。また、9,10-アントラセンジプロピオン酸(ADPA)は一重項酸素が [ 2+4 ] 環化付加により1:1で定量的に一重項酸素と反応するため解析用のプローブとして使用した。実験方法は 2-2 、結果と考察は 2-3 に示す。
 2-3-1 ではローズベンガル(RB)による有機光増感剤ナノ粒子膜の作製を行った。RBの捕集率を、pH、アルミナ添加量、RB添加量、静置時間の4要素を変化させ求め、そこから最適条件を決定した。今回 7 種類のpH緩衝液を用いて捕集率を求めたところpH 6 以下の緩衝液を用いた際に捕集率 100 %を得た。pHが等電点より高くなると、膜は繊維状にひび割れ、色も薄くなった。これはpHが高くなったことでアルミナのゼータ電位がマイナスとなり、RBと反発を起こし凝集しなくなったためと考えられる。アルミナ分散液とRB溶液の添加量変化においては、RBを多くした、もしくはアルミナを少なくした場合、アルミナに凝集できなかった分が抜け落ちた。反対にRBを少なくした場合はRBの濃度が下がるため、色が薄くなった。アルミナを多くした場合はRBの捕集はできるもののRB量が少ないためにアルミナ自体が乾燥して膜表面が割れた。また、静置時間においては大きな変化がなかったため、アルミナとRBはすぐ凝集が起こっているということが分かった。
 2-3-2 では、ADPAを用いた光消色試験を行った。RB、メチレンブルー、ルブレン、テトラフェニルポルフィリン、プロトポルフィリンIXの 5 種を全て拡散距離 0.473 mm として実験した。その結果を擬一次反応式に当てはめたところ、光増感剤ナノ粒子膜を用いた場合にはどれも透過吸収強度の減少が見られた。また、試薬による減衰の差と量子収率に関連性があるかを比較した。疎水性と親水性で用いたフィルターが異なるため、それを区別した場合量子収率の値と近い比率で変化しているようにみえる。ここで、ルブレンのみ量子収率が高いのに対し、速度定数は低い値を取っている。これは、ルブレンが光酸化しやすいためだと考えられ、反応がすぐ終わってしまうためと考えられる。
 2-3-3 では、現在レーザー用色素として用いられているベーシックレッド1(BR)を消色色素として用いて拡散距離 0.943 mm として同様に実験を行った。結果、RBナノ粒子膜から発生した一重項酸素によりBRは退色した。RBはそれ自身で光分解を起こし退色するが今回の結果では明らかにそれ以上の効果が出ている。よってRBナノ粒子膜を用いることで一重項酸素が発生したということが分かる。

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