小口 達也

固体酸化物燃料電池空気極用のランタンニッケル鉄酸化物における酸素不定比性とカソード還元反応の関係

佐藤 一則

固体酸化物燃料電池(SOFC)の空気極(カソード)において、La(Ni0.6Fe0.4)O3-δ(LNF)は高い電子伝導性を示し、空気極に適することが近年見出された。しかし、LNFの酸素不定比性がカソード反応に及ぼす影響は明らかでない。外部回路への放電電流密度増大に伴いカソード過電圧が増大した際、三相界面における電解質への酸化物イオン供給能を低下させ、LNF格子中の酸素欠陥量が増加する可能性がある。これに伴う格子Fe3+イオンの還元がLNF結晶相の不安定化をもたらし、空気極性能低下の要因となっていると考えられる。しかし、LNFの酸素不定比性と格子鉄イオンの定量的な関係が不明であった。本研究では、ヨウ素滴定法により格子鉄イオンの価数と酸素欠陥量を決定し、酸素不定比性とカソード還元反応の関係を検討した。
発電時のLNF空気極における初期雰囲気酸素濃度の影響を検討するため、雰囲気酸素濃度依存性を放電特性、空気極過電圧およびセル界面抵抗測定より評価した。その結果、初期雰囲気酸素濃度が低い場合の測定では、雰囲気酸素濃度を高めてもセル性能の低下が認められた。これらのLNF空気極性能の低下に伴うLNF結晶相分解の有無を確認するため、850℃、不活性ガス(Ar)雰囲気下で加熱処理したLNF粉末のX線回折測定を行った。その結果、72時間加熱したLNF粉末で回折ピークシフトが起こり、96時間加熱では結晶相分離が起こることを確認した。一方、LNF粉末を850℃のAr雰囲気に24時間保持しても格子酸素脱離にともなう格子定数減少が認められなかったことから、この条件下ではLNF結晶相が安定であることを明らかにした。ヨウ素滴定による酸素不定比性と格子(Fe3+, Fe2+)イオンの定量的な検討を行った。その結果、850℃のAr雰囲気において10〜24時間加熱処理をしたLNF粉末では、酸素不定比性およびFeイオンの価数変化がないことを確認した。
以上の結果から、LNFは不活性ガス雰囲気の低酸素濃度において約850℃以上での長時間保持では、 結晶相分離が容易で安定な結晶相として存在できないことを示した。これは、雰囲気酸素濃度の低下に伴いLNFの格子酸素が気相中に脱離して酸素欠陥が増加した影響により、格子Fe3+イオンの還元にともなうLNF結晶相の不安定化が引き起こされたためと考えられる。一方、850℃、24時間のAr雰囲気下においては、格子定数精密化測定とヨウ素滴定の結果より、格子定数、Feイオンの価数、および酸素不定比に変化が認められないことから気相への酸素脱離速度が比較的低いことを示した。したがって、LNF空気極を用いる固体酸化物燃料電池の通常動作温度である約800℃では、空気極と電解質との界面への空気供給が十分であればLNF空気極における発電時の酸素欠損による性能低下への影響はほとんど無視できることが明らかとなった。

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