青山弘典

複合遷移金属酸化物粒子によるメタンのアノード酸化反応活性向上

佐藤 一則

本研究ではメタンの直接供給発電が可能な固体酸化物燃料電池(SOFC)開発を目指し, 化学反応平衡論的にメタンの完全酸化反応の進行に有利な約500℃付近の低温域でのアノード酸化反応活性の向上を目的とした.このために層状結晶構造をもつLiCoO2とメタン吸着能に優れるLiMn2O4の2種類の複合遷移金属酸化物に着目した.これらの金属酸化物は十分な電子伝導性と構成遷移金属イオンの価電子状態変化が可能なことから、アノード酸化反応サイトにおける電荷移行促進と反応物質の効率的な表面吸着効果が期待できる.これらの物質によるアノード酸化反応活性化効果を検討するために, LiCoO2およびLiMn2O4を固相反応法によって合成し, それぞれを単独あるいは混在粒子状態で金ペースト電極基質にアノードとして分散固定した単セルを作製した.用いた金属酸化物の組成は,(100, 80, 50, 0 mass%) LiCoO2-(0, 20, 50, 100 mass%)LiMn2O4 とした.電解質は8 mol%Y2O3-ZrO2(YSZ)ディスクを,カソードは金ペースト電極をそれぞれ用いた. 400℃から650℃の温度範囲において,3 vol%水蒸気添加水素, アルゴン希釈10 vol%メタン, あるいはヘリウム希釈10 vol%加湿メタンの3種類の燃料をアノードに供給し起電力測定を行い, その温度依存性を検討した.
3 vol%水蒸気を添加した水素では,80 mass%LiCoO2-20 mass%LiMn2O4混合粒子を分散固定したアノードを用いたセルで最も高い起電力を示した.ヘリウム希釈10 vol%メタンでは, LiCoO2, LiMn2O4, および 80 mass%LiCoO2-20 mass%LiMn2O4混合体のそれぞれの粒子を分散固定したアノードを用いたセルで, これらの粒子を分散固定しないアノードに比べて高い起電力を示した. LiCoO2とLiMn2O4の固相間反応によりLi2MnO3が生成することをX線回折測定結果から確認した. 80 mass%LiCoO2-20 mass%LiMn2O4混合体粒子を分散固定したアノードでは, LiCoO2とLiMn2O4の固相間反応によってLiMn2O4相が消失し,LiCoO2とLi2MnO3の混合相が存在した.Li2MnO3は還元雰囲気による格子酸素欠損によってMn3+とMn4+の混合電荷状態が可能であることから,この状態が吸着メタン分子に対するアノード酸化反応の活性サイト形成に寄与すると考えられる.さらに,LiCoO2とLi2MnO3の結晶格子中の遷移金属イオンと酸化物イオンの酸化還元変化によって,吸着メタン分子と電解質からの供給O2-イオンの酸化反応活性が高められる可能性を示した.

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