小池薫

長期モニタリングデータを用いた道路排水の重金属類汚濁負荷算出とその降雨特性による影響

小松俊哉,姫野修司

近年、ノンポイント汚染はポイント汚染に該当する都市下水や工場排水と比較し水質汚濁における割合も上回る状況にあることが多くの研究や調査から明らかとなっている。その中でも道路排水は水環境に与える負荷が大きいと考えられているが、道路排水に含まれる汚濁物質の発生由来や水質汚濁としての実態が明らかとなっていないのが現状である。
本研究では、2008年度・本学修了生が作成した小型採水装置において対応降雨強度の増大化(12mm/h→20mm/h)を目的とした部分改良を施した装置を用いて、橋梁の上部にある1つの雨水ますに流入した道路排水を降雨開始から降雨終了までの間、分割し、継続的な道路排水を採水した。採水数は2年間で21サンプルであり、降雨量において558mm道路排水を採水した。これは2年間に発生した4~12月の降雨の約16%にあたる。雨水も並行して採水した。
道路排水に含まれる重金属類による汚濁実態の解明やこれらの発生源の推定を目的として、これらの降雨において降雨特性にあたる総降雨量・先行無降雨時間・最大降雨強度等を整理し、ICP発光分析装置を用いて道路排水中に含まれる7元素(カドミウム・クロム・鉛・亜鉛・銅・鉄・マンガン)の濃度を溶存態:<1m、微粒子:1m〜2000m、懸濁態:>2000mの3形態に分けて測定し、濃度および汚濁負荷量を算出した。
道路排水中の重金属は微粒子と懸濁態に含まれる割合が高かった。全濃度の平均値をみると、環境基準との比較では鉛と亜鉛が超過し、排水基準との比較では、超過した重金属はなかったものの鉄が平均値で基準値の50%以上を示した。同時に採水した雨水の濃度と比較すると、道路排水中の濃度が雨水よりも全体的に大幅に高く、路面堆積物や土壌の影響が大きいと考えられた。また、その中では、鉛は比較的雨水にも含まれていることが明らかとなった。重金属間の関連性については、銅、鉄、マンガンが特に強い相関を示すことやカドミウム、鉛が他の重金属と比較的異なる傾向を持つことなどが明らかとなった。
道路排水から発生する重金属類の汚濁負荷を解析した結果、全ての元素が総降雨量の影響を受けていることが明らかとなった。ただし、相関係数は0.2~0.4程度であり弱い正の相関である。また、先行無降雨時間に関しては、突出した極めて長い582時間のサンプルではほぼ全ての重金属が最大負荷を示したが、それ以外では関連が見られないことも明らかとなった。このことは、今回は先行無降雨時間が長いサンプルで総降雨量が少ない傾向にあったことも影響したと考えられる。また、最大降雨強度12mm/h以上のサンプルについても考察したが、多くのサンプルが最大降雨強度の影響を受けていない結果となった。ただし、この結果についても、それらは比較的総降雨量が少なかったことが一因と考えられる。
本研究では、採水サンプルにおける総降雨量と汚濁負荷との関連性をもとに、採水できなかった降雨における負荷も推定して各重金属の年間流出負荷量を算出し、採水地点の特徴を把握した。本研究により、道路排水の重金属流出に関して信頼性の高い基礎データが得られたと考えられる。今後、研究成果がノンポイント汚染の対策技術に活用されていくことが期待される。

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