坂本 朝子

流出モデルのダム管理への利活用について

陸 旻皎

現行のダム操作では,ダム放流量を時々刻々の観測ダム流入量から決定しており,ダム管理者は現在時刻の観測流入量および気象条件から,その時々の操作を判断し,洪水調節を行っている.一方,流域内の雨量と流出量の関係をモデル化する流出モデルを用いて流出解析を行い,適切にパラメータ設定を行うことで,観測雨量からダムへの流入量予測が可能である.こうして予測された情報をダム操作に用いることで,放流操作を事前に決定することができ,より効率的な操作を行なうことが可能になると考えられる.本研究では,水資源の管理および効率的なダム管理を目的として,構築した集中型モデルを用いてダム操作に必要となるダム流入量を予測し,予測情報を用いて新たなダム操作ルールの検討を行った.まず,研究対象流域の早明浦ダム流域において,計算の簡単な集中型モデルを構築し,適切なパラメータの同定を行った.その結果からこうして求められた予測ダム流入量をダム操作に入力値として与えることで,事前に予測ダム放流量および予測ダム貯水量を得ることが可能になった.これらを踏まえ,次に新たなダム操作ルールとして2つのルールを提案した.提案するルールでは,流入量を予測できるリードタイム内の各時間ステップのダム操作に,入力値として予測ダム流入量を用いることとし,新ルールのみの効果の比較のために入力値として完璧なモデルによる予測ダム流入量,つまり実測ダム流入量を用いる検討と本研究で構築した流出モデルによる予測ダム流入量,つまり予測誤差を含むダム流入量を用いる検討の2つの検討も行った.新しいダム操作ルールの1つ目として,リードタイム後の貯水量が,ダムの決壊を防ぐための放流量が流入量と等しくする操作であるただし書き操作水位の容量を超えたら計画最大放流量を放流するという比較的簡単なルールを提案した.また,新しいダム操作ルールの2つ目として,ただし書き操作に移行した場合の放流量を放流すべき水量とし,その水量を計画最大放流量およびそれよりも少ない放流量との差を空き容量と比較し決定した流量を放流するというルールを提案し,効果を検討した.検討結果から,予測情報を用いたダム操作を行なうことで,ただし書き操作回避やただし書き操作への移行時間を遅らせることが可能であること,ピーク放流量を低減できることがわかった.特に,後者の新たなダム操作ルールにおいては,ただし書き操作水位の容量を超えた分の貯水量のみを事前に放流する方法をとっていることから,過剰な放流をせずに洪水調節を行なうことができると考え,流出モデルをダム管理に利活用することは,水資源の確保や効率的なダム管理につながるといえる.

前のページに戻るには"戻るボタン"で戻ってください。