建設構造研究室 下鳥雄萌

FRPシートによる鋼桁腹板の腐食部補修方法に関する基礎的研究

指導教官 長井正嗣

鋼構造物は腐食により性能の低下が生じる.力学性能を回復させるための補修・補強では,ボルトや溶接による当て板工法や部材交換が主として行なわれているものの,ボルト孔による断面欠損や溶接入熱による熱影響等の問題が生じる.このような状況の中,炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を補修・補強材料として用いるCFRP接着工法が注目されている.この工法は断面欠損や熱影響を生じさせず,既往の研究から十分な補強効果を有することが明らかになっている.CFRP接着工法では,主に軸力部材やI桁のフランジなど断面の垂直応力に対する補修・補強を対象としている.しかし,実橋では,桁端部付近の下フランジ近傍における腹板の腐食が数多く見受けられている.そのため,従来のCFRP接着工法を腹板の補修にそのまま適用することを考えると,CFRPがせん断力の卓越による腹板の座屈変形に追従できず,CFRP端部で剥離してしまうことが懸念される.
以上より,合理的な鋼桁腹板の腐食部補修方法の確立が必要とされている.本研究では,その基礎研究として,様々なFRPシートを接着させた鋼板の一軸圧縮座屈試験を行い,板の耐荷力を向上させ,座屈変形に追従するFRPシートの選定を目的とした. また,ウレタン樹脂パテ層の有無による変形性能の比較を行った.
試験結果から,耐荷力を向上させるFRPシートとして,鋼単体の弾性座屈荷重に対して約60%の補強効果を有する高弾性型炭素繊維ストランドシート,次いで約30%の補強効果を有する高弾性型炭素繊維が選定された.変形性能の高いFRPシートとして,FRPシートに破断もしくは剥離が生じるまでの中央変位量が約165mmである高強度ポリエチレン,次いで約105mmのガラス繊維が選定された.ここで,ウレタン樹脂パテ層の有無による変形性能の向上は確認されなかった.しかし,破壊状況の比較を行うと,ウレタン樹脂パテ仕様ではFRPシートの破断が確認され,ウレタン樹脂パテ無しではFRPシートの破断ならびに剥離が確認された.このことから,ウレタン樹脂パテはFRPシートの剥離防止効果を有し,FRPシート剥離による急激な荷重低下を防止することか確認できた.
鋼桁腹板の腐食部補修方法の確立に向け,今後は,耐荷性能と変形性能の両者を向上させるために,本研究より選定されたFRPシートを積層させた試験体での一軸圧縮座屈試験が考えられる.また,鋼桁試験体の腹版にFRPシートを接着してせん断試験を実施し,補強効果や剥離特性等を明確にする必要がある.

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