白田 幸忠
既設鋼橋の振動モニタリング手法に関する研究
長井 正嗣
2007年,木曽川大橋において鋼材の腐食破断が発見され,既設橋梁の維持管理は喫緊の課題となっている.現在,構造物にセンサを設置してモニタリングを行い,健全性を評価する構造ヘルスモニタリングが注目されている.この中で,構造物の劣化や損傷による剛性の低下が振動より同定される動特性の変化に結びつくと考えられ,振動モニタリングに関する研究が積極的に行われている.
通常,既設橋梁の多くでは建設時の動特性が得られていないため,データの相対的な変化に基づいて健全性を直接評価することは難しい.また,健全性を評価するための計測位置,計測量,損傷の検出限界についても明確でないという大きな問題がある.
以上より,本研究では既設橋梁の振動モニタリングで要求される計測位置,計測量,損傷の検出限界を把握することを目的として,以下の手順で研究を進めた.まず,対象橋梁の振動計測を行い,現況動特性を把握する.次に,現況動特性を反映したFEAモデルの作成と修正を行い,耐荷力解析により,応力が許容値を超過する部材を特定する.そして,その特定した部材に擬似的損傷を与え,構造物の冗長性を評価するリダンダンシー解析を行う.ここでは,固有値解析も実施して,損傷が動特性に与える影響を調査する.以上より,振動モニタリングで要求される計測位置,計測量ならびに損傷の検出限界について検討した.
本研究より得られた知見を示す.
・橋梁全体の固有振動数と振動モード形の変化
各部材グループに損傷(ここでは,破断)を与え,固有値解析を行った結果,橋梁全体の固有振動数が低下した.また,固有振動数の低下は,破断した位置が大きく変形する振動モード形ほど大きくなる傾向がある.
・部材の固有振動数の変化
部材の固有振動数は,破断することによって大幅に低下する.この部材局所の固有振動数の低下は橋梁全体の固有振動数の変化よりも大きいため,部材の損傷箇所の特定に有効である.
・損傷検出の限界について
下弦材,縦桁,横桁に関しては破断を与えても,固有振動数に変化が見られなかった.この原因として,下弦材,縦桁,横桁は床版と結合しており,部材の破断が床版の剛性の低下に影響しないため,固有振動数の変化がないと考えられる.
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