佐藤悠樹

鋼橋の応力モニタリングに向けた磁歪法の適用性に関する研究

長井正嗣

1. 目的
近年,国内外において,既設橋梁の事故・損傷事例が多数報告されている.従来の維持管理手法は,主に目視検査により行われており,主観的かつ定性的な面が否めない.そのため,定量的かつ効率的な維持管理手法の確立が求められている.本研究では,鋼橋の応力モニタリングに向けて,絶対応力を非破壊で測定することが可能な磁歪法の適用性について検討することを目的とした.
2. 実験および計測概要
1) 磁歪法で必要とされる校正曲線の精度に関する検討を行う.具体的には,同材質,同寸法の試験片数体から,それぞれ校正曲線を作成して比較を行い,精度を検証する.
2) 磁歪法は,センサと測定物までの距離(以下,リフトオフ)の影響を受けやすいという欠点を有している.そのため,従来の校正曲線を規格化することで,リフトオフに依らず,塗膜上からも測定することが可能な校正曲線の作成方法を開発する.その精度検証として,ビード溶接を施した薄鋼板の残留応力を磁歪法と応力解放法により計測する.
3) 実橋梁へ積極的に適用が行われている厚板の校正曲線の特性を把握する.
4) 実橋梁での適用性を把握するため,現場計測を実施する.
3. 結論
1) 同材質, 同一寸法の試験片から作成される校正曲線は、概ね,同じものとなる.また,試験片内での計測位置には依存しない.しかし,応力が増加するにつれて校正曲線の接線の傾きが大きくなると,誤差が生じやすくなる.
2) 提案したリフトオフに依らない校正曲線の妥当性を検証するために,ビード溶接を施した薄鋼板の残留応力を磁歪法と応力解放法により計測した.その結果,両者は良好に一致し,妥当性が示された.
3) 板厚が31mm以上の鋼材では,出力電圧は,板厚が厚くなるほど増加し,ある値に収束する傾向が見られた.厚板の校正曲線の特性に基づき,板厚に依らない校正曲線の作成方法を提案した.また,現場計測から提案手法の妥当性を検証した.
4) 本研究で提案したリフトオフと板厚に依らない校正曲線の作成方法を利用することで,実橋における応力モニタリング手法として,磁歪法の適用性は十分にあるものと考える.しかし,適用範囲は,弾性域内に限られる.
4. 今後の課題
1) 板厚に依らない校正曲線において,板厚41mm以下,88mm以上の鋼材に対する校正曲線の特性を把握する必要がある.
2) 磁歪法を用いて板厚内部の応力状態を把握するために,板厚をパラメータとして溶接を施したT型試験体を作成する.試験体に対して,磁歪法計測ならびに応力開放法を実施し,板厚内部の残留応力分布などの把握を進める.
3) 主応力を分離するためのせん断応力差積分法には,計算誤差が蓄積するという問題点がある.そのため,新たな主応力分離方法ならびに計測方法を考案する必要がある.

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