伊藤 俊

数値シミュレーションによる橋梁断面周辺の飛来塩分の推定と分布特性に関する研究

岩崎英治

近年,ライフサイクルコスト(LCC)の低減が各産業では重要な課題とされている.建設業界では,上記の課題に加えて,耐久性が高く長期間にわたって共用できる構造物の建設が求められている.橋梁の建設に関して,充分な国際競争力を持った合理化鋼橋にLCC低減の期待がよせられているが,周期的な塗装の塗り替えなどの維持管理費用が,鋼橋のLCCを押し上げる要因となっている.
耐候性鋼材は,普通鋼に比べて優れた耐食性を有した鋼材であり,大気中において鋼材が風雨にさらされた場合でも無塗装で使用できる.そのためLCCは抑制され,無塗装耐候性鋼橋梁が全鋼橋に占める比率は年々増加傾向にある.
耐候性鋼材が腐食する主な要因は飛来塩分であり,橋梁における耐候性鋼材の適用可能な許容飛来塩分量は0.05mdd(mg/dm2/day)以下とされている.しかし,橋梁断面周辺の風の流れにより橋梁各部位に飛来する塩分量は異なり,腐食状況にも各部位間で差異が生じる懸念がある.また,耐候性鋼材の適用地域の規定には,飛来塩分量などの橋梁の局所的な要素が含まれていないといった問題点もある.
したがって,橋梁断面における飛来塩分量を予測することが出来れば,適切に耐候性鋼材の使用の適否を判断することが出来る.さらに,飛来塩分量と耐候性鋼材の腐食減耗量との関係が確立していると,耐候性鋼橋梁の各部位の腐食環境に適した防食設計も可能になると考えられる.
そこで本研究では,数値シミュレーションによる橋梁断面周辺の飛来塩分の推定の可能性を検討するために,飛来塩分の実橋観測を行なった.また,流れの中での粒子の運動によって飛来塩分の移流拡散を再現し,数値シミュレーションの妥当性の評価と実橋観測結果との比較,および,橋梁断面周辺の飛来塩分の分布に影響を与える因子の検討を行なった.
その結果,観測月により橋梁各部位の飛来塩分量には増減があるが,その比率はほぼ一定に保たれていることがわかった.また,数値シミュレーションによって橋梁架設前のある1箇所での飛来塩分の観測値を用いて,その場所に建設される橋梁の桁付近の飛来塩分量を推定することは概ね可能であると推測された.桁内部における飛来塩分の分布について,飛来塩分は桁内部の風況に強く影響を受け,桁下空間の変化に伴って桁内部での飛来塩分も変化することがわかった.

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