諸橋 正達
信濃川中流域における洪水流の貯留機能に関する研究
細山田 得三
わが国の治水設備の整備による洪水対策は着実に進歩してきた.近年では地域の人々の意向を反映した川づくりが重視され,1997年の河川法改正により治水,利水の他に,河川環境の整備と保全が目的に加わった.しかし,治水・利水対策として重要な役割を持つダムが,環境保護や公共事業費削減などの理由で建設困難な状況になりつつある.近年では,観測史上最大規模やそれに近い豪雨が頻発している.このような状況のなか,新たな治水対策として議論されるのが「河川の貯留効果」である.貯留効果には河道内で洪水流を「貯留」することにより,下流河道へ流れるピーク流量のカット,ピーク流量到達時刻の遅延をもたらす効果がある.国土交通省信濃川河川事務所では,洪水時に信濃川中流域で現地観測を行い,その時系列のピークの低減や水面形の変化から,信濃川に貯留効果があると報告している.しかし,貯留効果は,洪水自身が非定常性であること,また河道形状の変化などから常に一様に現れるものでないことから,これまで十分にその現象を捉えきれておらず,治水計画に取り入れるまでにはいたっていない.そこで本研究では,信濃川中流域における貯留効果について検討,評価することを目的とし,一般曲線座標による平面2次元不定流数値計算モデルを用いて,対象区間の洪水流を解析した結果,以下の結論を得た.
流量ハイドログラフの水位上昇速度に着目すると,水位上昇速度が急な洪水において河道内の貯留量が大きくなることを確認した.水位上昇速度が急な洪水において,下流河道にピーク流量の低減をもたらすことを確認した.ある一定の水位上昇速度に対するピーク流量の低減量は流量規模に依存するが,ピーク流量の低減量には上限があることを確認した.水位上昇速度が緩やかな洪水では,河道内で貯留は発生しているが,下流河道にピーク流量の低減はもたらさないことを確認した.これは,単位時間当たりの水位上昇速度が大きいほど,下流に流れる流量は小さくなることからもいえる.単位時間当たりの水位上昇速度から,信濃川中流域において貯留効果が大きく発揮されている箇所を示した.貯流量の時系列変化より,高水敷への洪水流の乗り上げによる貯留を確認した.長岡流量水位観測所で観測された流量と水位を,計算値と比較した結果,良好な一致が得られたため,計算モデルの妥当性を確認した.
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