樋上聖悟
 
農水産品輸送に伴うCO2排出量の推計と環境負荷軽減方策に関する考察
 
指導教員:佐野可寸志・土屋 哲・松本昌二
 
現在,我々の社会経済活動に伴って排出される温室効果ガスなどの環境への負荷が懸念されている.二酸化炭素の場合では,運輸・交通部門からの排出量は削減努力を行っているにもかかわらず2001年をピークとしてほぼ横ばい状態であり,我が国の全経済活動に伴って排出される量の約2割を占めている.輸送に伴うCO2排出量の削減のためには,長期的には技術の進歩(単位輸送距離あるいは単位重量輸送距離あたりのCO2排出量の低下)が望まれるが,短期的にはモーダルシフトなどの施策によって排出量の極小化を目指すことが求められ,国土交通省においても2005年より物流分野における環境施策の推進を挙げる中でモーダルシフトについて取り上げている.
このような背景のもと,本研究では,第8回全国貨物純流動調査における農水産品の都道府県間輸送量を基準データに用いて,農水産品の輸送段階で発生するCO2の量の推計プロセスをとおして,モーダルシフト効果や総輸送距離極小化効果がCO2排出量の軽減にどのくらい寄与するかを定量的に評価し,環境負荷軽減方策について考察した.その結果,モーダルシフトによるCO2削減率は約2%という推計値を得た.
次に,削減率の比較を行うために,地域生産量・需要量を所与としたときの計算上達成可能なCO2削減量を計算した.すなわち,同一品目の交差交易をなくすなどすることで総輸送距離を最小化し,その状態でのCO2排出量から削減率を求めた.この結果が39%となった.さらに,先の方法を実施する際に輸送機関の変更を認めることとして同様の推計を行ったところ,削減率が60%まで上がるという結果を得た.もちろん,この計算で実現している地域間交易の最適なパターンは理想的・空想的なものであり,実際にこのような状況を実現させることは極めて困難であるが,こうして得られた削減率は一つの「参照値」として有用であると考えられる.
上記のCO2排出量推計計算では,目的関数にCO2排出量を用いているが,これを輸送費用に置き換えた最適化問題から求めた地域間交易パターンでも同様にCO2排出量および削減率の試算を行った.その結果,両者の計算結果に明確な差が見られるケースもあった.これは,近距離地域間の輸送が必ずしも費用が安いとは限らないことを意味しており,都市の経済活動規模などを考慮する必要があることを示唆している.

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