野村智成

多地域応用一般均衡モデルにおける地域間交易の定式化に関する一考察

指導教員:松本昌二・土屋 哲・佐野可寸志

近年,経済のグローバル化や環境志向の高まりなどにより,物流を取り巻く環境は大きく変化している.地域間の相互依存関係が今後益々密接なものになってくると考えられる中,このような社会状況の変容に即して,効率的かつ持続的な物流体系を形成していくことが重要な課題となる.そのためには産業構造の変化,あるいは公共事業・公共政策による地域間交易の変化を適切に評価することが求められ,地域間の交易をより的確に把握できるモデルが必要不可欠となっている.そこで本研究では,交易量の変動を交通環境(輸送コスト等)のみではなく地域経済活動の結果として扱うことのできる多地域応用一般均衡モデルを念頭においた地域間交易の定式化に着目し,地域間交易モデルのパラメータ推定を通してこれらの分析における問題点の整理を行った.多地域応用一般均衡モデルにおける地域間交易のモデル化において最も代表的なアプローチであるCES型関数による定式化については,その問題点として指摘されることの多い代替弾力性に焦点を当て,日本国内における代替弾力性の推定を通して,その分析手法の課題を整理した.そこでは,生産地価格に係るデータの問題,財・産業部門が集約されすぎていることから生じる問題を指摘しながらも,日本国内における現状のデータのもとでは代替弾力性を推定することは困難であることが示唆された.そこで,これらの結果を受けて,本研究では多地域応用一般均衡モデルにおける地域間交易の定式化において,もう一方の代表的なアプローチであるHarker型モデルに焦点を移し,パラメータ推定を通して,再現性を検証した.そして,実際の交易データにおける現況再現性が良好でないというHarker型モデルの問題点を明確に示した上で,その代替モデルとして提案したMCIモデルとの比較・検討を行った.その結果,MCIモデルを用いることで,地域間産業連関表における基準交易量について地域間交通量などの代理指標を利用できるというHarker型モデルの長所を引き継ぎながらも,価格に関してゼロ次同次性が満たされないことや,現況再現性が良好でないという問題点を改善することができ,MCIモデルの有効性を示すことができた.

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