三田 悠史

金属イオン置換効果を用いた水素生成のための水分解光触媒の活性化

佐藤 一則

再生可能エネルギーである太陽光を利用し水を分解してクリーンな水素を得ることができる光触媒において高活性化のための指針を確立することはきわめて重要な技術課題である。光触媒活性は光触媒のバンド構造と局所構造によって支配されるため,この2つの因子を制御することが望まれる。
本研究では金属酸化物光触媒を構成する (金属-酸素)四面体や八面体の局所構造を変化させることが,光触媒の高活性化に有効であるとの考えを基に,光触媒の構成金属イオンを異種金属イオンで置換した場合の光触媒活性に及ぼす効果について調べた。
本研究において,歪みのないGaO4四面体,GaO6八面体およびMgO6八面体から構成されるスピネル型結晶構造(立方晶系 Fd-3m)を持つMgGa2O4に着目し,構成する金属イオンの置換による光触媒活性について調べた。
第2章ではMgGa2O4 を構成する骨格金属イオンであるd10電子状態Ga3+に対しIn3+およびAl3+を置換した効果について調べた。RuO2を担持したMgGa2-xInxO4において置換量xの増加に伴い,光触媒活性は増加し,x=0.08で最も高い活性を示し,MgGa2O4単独の場合と比較して6倍となった。一方,MgGa2-yAlyO4では置換量yが増加しても活性に大きな変化はなかった。レーザーラマンスペクトル測定から,In3+置換によりGaO6八面体の全対称伸縮振動によるA1gピークがシフトし,In3+置換が局所構造に変化を与えたことがわかった。このラマンピークのシフトと活性の増加が対応することから,局所構造であるGaO6八面体に歪みにより活性の増加が生じたものと考察した。一方, Ga3+とイオン半径の近いAl3+置換では,ラマンピークのシフト量が小さく,GaO6八面体の局所構造に影響を与えず活性の向上が見られなかったと考察した。また,密度汎関数法によるバンド計算から,In置換により伝導帯にIn5s5p混成軌道が導入されバンド分散が大きくなり電子の移動度が増加したことも活性の増加の要因であることを明らかにした。
第3章ではMgGa2O4 を構成するアルカリ土類金属イオンを置換した場合について検討した。Zn2+置換においてA1gラマンピークのシフト量はほとんど無く,局所構造への影響が生じなかったものと考察した。第2章の結果と合わせて,金属イオン置換による活性化機構において光触媒中心である局所構造GaO6八面体に変化を与えることが有用であることを明らかにした。
第4章では,再生可能エネルギーである太陽光利用の観点から,可視光応答性を持つGaN/ZnOが注目されているが,従来の固定床型炉によるGaN/ZnO作製では多量のNH3を必要とすることおよび試料が不均一であるなどの問題点が存在する。このため,ロータリーキルン型流通装置を用いたGaN/ZnO作製を検討した。ロータリーキルン型流通炉を用いて作製したGaN/ZnOは少ないNH3流量で,均一な試料を得ることができ,RuO2を担持することにより光触媒となることを示した。
以上,本研究から,光触媒を構成する金属イオンの置換が光触媒の局所構造および電子構造に変化を与え光触媒活性が増加すること,およびその活性化機構について明らかにし,今後の光触媒開発の指針となるものと結論した。

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