清水 知幸

層状結晶構造を示すビスマス系酸化物の空気極適合性

佐藤 一則

1000℃付近の高温で動作するSOFCはエネルギー変換効率が高いが、各構成材料の熱膨張率の不一致による割れなどの耐久性の問題や、インターコネクタの材料選択の制約から、目安として800℃以下での低温動作化が望まれている。しかし、低温動作化は発電性能を左右する電子およびイオン伝導性の低下を生じる。したがって、低温動作化の実現にはSOFC構成材料の電子・イオン伝導性向上が重要である。
本研究では、新規空気極材料として層状結晶構造を持つビスマス系複合銅酸化物に着目した。この酸化物はBiO二重層による酸化物イオン伝導と、CuO2層による電子伝導が期待できる。数種あるビスマス系複合銅酸化物のうち、Bi2Sr2-XLaXCuO6+δ(Bi2201)はSrのLa置換による結晶相転移が混合伝導性をもたらし、La置換量X=1.0において酸素濃淡電池起電力が最大となる知見が得られている。そこで本研究ではX=1.0のBi2201において、SOFCを形成する際に重要となる電解質材料との化学的安定性について検討し、Bi2201を空気極材料とした二端子電極の単セル試料の発電性能を評価した。
電解質材料として一般的なイットリア安定化ジルコニア(YSZ: Yttria-Stabilized Zirconia)とサマリア添加セリア(SDC: Samaria-Doped Ceria)について、Bi2201との高温状態での反応性をX線回折測定によって評価した。その結果、Bi2201は800℃以上でYSZと反応して分解し、880℃でBi2O3や導電率の低いCuO、La2Zr2O7、SrZrO3が生成した。
一方、Bi2201とSDCとは熱処理後のXRD測定において反応生成物のピークが確認されなかったことから、880℃、12 hでは反応しないことを見出した。この結果より、Bi2201空気極に対するSDC電解質の可能性を見出した。
SDC電解質を用いて二端子電極の単セル試料を作製し、その発電性能をSm0.5Sr0.5CoO3-δ(SSC)を空気極とする同形式の単セル試料との比較から評価した。その結果、Bi2201は同条件で空気極性能を比較した場合、700°CでSSCの60%程度の最大電力密度を示した。ただし、測定温度の低下とともにBi2201とSSCの最大電力密度、オーミック抵抗、分極抵抗の差は小さくなる傾向を示したことから、500℃以下の低温領域においてBi2201がSSCより優位となる可能性がある。また、SSCが格子内で混合伝導を発現するのに対し、Bi2201はBiO層とCuO2層の異なる層で混合伝導を発現し、その伝導メカニズムの違いが空気極反応に影響を及ぼすことを示した。

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