小野心也

海洋水族館を対象とした循環システムにおける生物学的窒素除去技術の開発

山口隆司

 現在,水族館において利用されている循環システムは,魚類など水生生物由来の窒素成分の除去が行われない。海洋水族館では,窒素成分除去のため海水による飼育水の希釈が行われているが,水質管理に多くのコストがかかる。そのため,希釈水量の低減が可能な窒素成分除去技術が求められる。本研究は,生物学的処理は廃水の組成や濃度に影響を受ける場合があるため,人工海水を飼育水として用い,知見の少ない塩分条件下においても使用可能なDHS槽による硝化槽とUASB槽による脱窒槽を組み合わせた無希釈型の生物学的窒素除去プロセスの開発を目指し,処理プロセスの評価を行った。
 実験装置は,魚飼育を想定した水槽 200 L,UASB 槽10 L,DHS槽 34 Lで構成した。UASB槽の植種汚泥は塩濃度3.0 %の人工海水で馴養した脱窒汚泥,メタン発酵汚泥,産業廃水処理汚泥を混合したものを用いた。DHS槽の植種汚泥は活性汚泥を用いた。UASB槽のHRTは,5.0 h から段階的に短縮させた。DHS槽のHRTは,0.09 h とした。人工飼育水は人工海水を用い,塩濃度3.0 %となるように調整した。また,水槽内には魚体3 kg/ m3から発生するアンモニア態窒素を想定し,塩化アンモニウムを1.24 mg-N/L/dayとなるように添加した。水槽内のpH は,8.0となるように塩酸を用いて調整を行った。UASB槽の電子供与体には酢酸ナトリウム(g C/g N = 3.0)を用いた。
 実験を行った結果,DHSの硝化作用により,水槽内におけるアンモニア,亜硝酸態窒素の平均濃度はそれぞれ0.1 (±0.31) mg-N/ L,0.02 (±0.02) mg-N/ Lとなり水槽内へのアンモニア,亜硝酸態窒素の顕著な蓄積は確認されず硝化が十分に行われていた。
 脱窒槽の性能は理論収束濃度によって評価した。HRT変更による脱窒槽の性能は,HRT 5.0,2.5,1.2 h 全てにおいて理論収束濃度以下となり良好な結果を得られた。また,UASB槽では槽内汚泥の菌叢解析を行った。その結果,UASB槽内では脱窒菌が全体の36%を占めていた。
 以上の結果から,本処理プロセスが海洋水族館を対象とした無希釈型の窒素除去技術として用いることが可能であると示された。

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