松浦哲久
嫌気性処理水に溶存するメタンガスの大気放散防止技術
山口隆司
好気性微生物を利用した活性汚泥法は,莫大なエネルギーを投入している分,良好な処理水質が得られる.しかし,
エネルギー枯渇,地球温暖化が騒がれている今日,活性汚泥法から脱却するために,新たな省エネ型下水処理法の確
立が望まれている.
インドやブラジルなどの新興国においては,省エネ型の嫌気性処理法(UASBなど)が採用されている.しかし,
嫌気性処理法には解決しなければならない課題がある.その一つに溶存メタン大気放散がある.処理水中には,生成
メタンガス分圧に依存するメタンが溶解している.現在,溶存メタンは処理されず,環境中に大気放散されているの
が現状である.メタンガスの温室効果係数は二酸化炭素の21倍と言われており,僅かな量も排出防止することが必要
である.
このような背景から,本研究では嫌気性処理法の長所を損なわず,溶存メタンの排出防止を包含した,省エネ型の
下排水処理法を提案した.下水処理場にUASBと二段の密閉型DHSを設置し,溶存メタンの回収と酸化分解の連続
実験を行った.その結果,溶存メタン回収DHSは,嫌気性処理水に含まれる溶存メタンを自燃可能濃度(メタン濃
度30%以上)で回収することができた.硫酸濃度の測定結果から,流入酸素の多くは硫黄酸化に使用されており,溶
存メタン回収に適している環境下であることがわかった.25℃付近の回収率は75%であったが,気温が低下するに従
い,回収率は低下することが判明した.10℃付近の回収率は60%程度であった.
回収型DHSの後段に設置した酸化型DHSでは,未回収の溶存メタンの殆どを酸化分解した.回収と酸化で,嫌気
性処理水中の溶存メタンを99%以上防止することが可能であった.酸化型DHSに保持された微生物群のクローニン
グを行ったところ,メタン酸化細菌が検出された.酸化分解に寄与していたメタン酸化細菌群は,夏期と冬期で,生
息している菌種に変化が見られた.このことから,DHS内では,季節に応じたメタン酸化細菌群が優先して,溶存メ
タンの酸化分解に寄与していることが明らかとなった.
処理水質の観点から,メタン回収型DHSにおいて,嫌気性処理水の有機物(BOD濃度44 mg・L-1)はほとんど処理
されず,BOD除去率は12%程度であった.メタン酸化型DHSでは,処理が可能であり,最終処理水質のBOD濃度
を15 mg・L-1にまで低減することが可能であった.
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