佐藤浩太



天然ゴム製造工程廃液を対象としたUASBとDHSによる次世代型処理プロセスの開発



山口隆司

天然ゴム生産国であるタイなどの東南アジアにおいて,製造工程から排出される廃水は,主に生物安定池法 (曝気式酸化池,嫌気性池など) によって処理されている。しかし,この方法は曝気式酸化池での莫大な曝気電力の消費や余剰汚泥発生量が多い点で問題を有する。さらに,嫌気性池からのメタンガスの放散は地球温暖化に大きく加担している。
そこで本研究では,これらの問題を解決する新規処理プロセスを開発した。本プロセスは,天然ゴム廃水の一種で高濃度に硫酸塩・有機物を含有するラテックス廃液を対象とし,UASB (Up-flow anaerobic sludge blanket) 反応槽を2段設け,1段目のUASB反応槽 (1st UASB) では硫酸塩還元とメタン回収,2段目のUASB反応槽 (2nd UASB) ではメタン回収を行った。その後段には,残存有機物やUASB反応槽で生成された硫化物を酸化除去するためにDHS (Down-flow hanging sponge) 反応槽を設けた。本論文では,UASB反応槽内のメタン生成古細菌 (Methanogenic archaea,MA) と硫酸塩還元細菌 (Sulfate-reducing bacteria,SRB) の動態に注目し,ラテックス廃液の連続処理実験を行った。処理性能と反応槽基軸方向の汚泥・基質濃度を評価し,最適運転条件を決定した。また,MAとSRBの基質分解に対する寄与度を活性試験から評価した。
その結果,ラテックス廃液 (10,200 mgCOD/L) を2段式UASB反応槽とDHS反応槽を用いてCOD容積負荷 (OLR) 0.91 kg/m3/d,水理学的滞留時間 (HRT) 11.1 daysの条件において処理した結果,COD除去率97.6%,処理水251 mgCOD/Lを達成した。1st UASBにおいては,OLR 1.5 kgCOD/m3/d程度で,COD除去率76%,メタン転換率51%を示した。このとき,硫酸塩容積負荷は約0.2 kgS/m3/dで, 除去率90%以上であった。しかしながら,OLR 2.0 kgCOD/m3/d以上となると,COD除去率37%,メタン転換率23%を下回った。従って,1st UASBの最適OLRは1.5 kgCOD/m3/dである。UASBで生成された硫化物540 mgS/Lは,DHS流下長0.8 mで1.0 mgS/L以下まで酸化除去され,硫酸塩が665 mgS/L再生成された。
さらに,活性試験の結果から,UASB内で酢酸はMA,水素はSRBによって優先的に資化されていることがわかった。最後に,本1st UASBと従来法である曝気式酸化池・沈殿槽の処理性能を比較した。その結果,従来法と同程度の有機物除去率を得るためには1.5倍のHRTが必要だが,処理水量当たりの温室効果ガス排出量は166% (バイオガス発電を含めない場合は83%) ,ランニングコストは132% (バイオガス発電を含めない場合は71%) 削減できることが確認された。

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