大矢明子

温帯地域におけるUASBリアクターの下水処理性能および保持汚泥特性の評価

山口隆司

 UASB法は、曝気動力不要で省エネルギーであるなどの理由から主に熱帯・亜熱帯地域において下水処理への適用が進められてきた。近年では温帯地域への適用も検討されているが、その場合冬期の水温低下に伴い微生物活性が低下するため、処理水質の低下や固形性有機物のリアクター内への蓄積が懸念される。従って、温帯地域においてUASB法を普及させるためには、冬期の固形性有機物の蓄積による処理水質の低下を回避する適切な運転管理方法が必要である。そこで本研究では、温帯地域での下水処理UASBにおける汚泥保持に関する基礎的知見の収集を目的として、パイロットスケールUASBリアクターによる都市下水の連続処理運転を行った。実験条件は、無加温、HRT 8hである。
 UASBは、冬期 (15℃以下) においても全COD除去率58%を得ており、3ヶ月程度であれば水温低下にも対応可能であることがわかった。セルロース濃度プロファイルの結果、流入固形性有機物は下部の保持汚泥に捕捉されることが明らかとなった。また、捕捉された有機物は、汚泥中に保持され微生物活性の高くなる春から夏期に分解することが示唆された。捕捉機能は温度によらず発揮され、処理水質の安定化に寄与していた。
 平均汚泥濃度は運転に伴って増加し、実験終了時には26.4 gVSS/Lに達した。全運転期間での汚泥転換率は、2.1%という小さい値であった。これは、汚泥負荷が高濃度汚泥保持により、0.05 gCOD/gVSS/dayという低いレベルを維持したためであると考えられる。中温消化汚泥を植種した本UASBにおいてもグラニュールが形成された。その結果、SVIは20~60 ml/gSSと良好な沈降性が得られ、SRTも約250日と十分な長さを保った。
 保持汚泥中のバクテリアの種数は、運転の経過とともに増加する傾向がみられた。また、バクテリアは均等に存在しており多様性に富んだ群集構造であることが明らかとなった。構成クローンの半数程度は、硫酸還元に関わるとされるProteobacteria門、酸生成に関わるBacteroidetes門およびFirmicutes門に属していた。保持汚泥中のアーキアは、運転に伴って偏りのあった群集構造から均等なものへと変化した。下水は、温度、濃度や組成などが変動するため、微生物種数の増加や均等化に影響を与えたと考えられる。
 長期連続運転を行い汚泥量、性状を定期的に調査した結果、「春から初夏にかけて下部の保持汚泥を1、2年に1度引抜く」ことが汚泥管理方法として有効であると提案することができた。
 これらの研究結果から、温帯地域の下水処理UASBの適用拡大の可能性が高まったと言える。

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