大塚 勇輝



廃水処理汚泥内apsA mRNA発現微生物群の高感度FISH法による検出



山口隆司



 微生物の系統分類学的な菌叢解析には、rRNAを分子マーカーとする方法が用いられている。しかし、微生物の持つ生理学的特徴を把握することが困難である。そこで、近年では機能遺伝子やその転写物 (mRNA) を対象とすることで環境中に存在する代謝能力を把握する方法が注目を集めている。しかし、この取得された機能遺伝子がどの微生物に保有されているのかを特定することが難しく、環境中の微生物個々の系統分類学的情報と生理学的特徴を同時に把握するためには、Fluorescence in situ hybridization (FISH) 法のようなシングルセルレベルかつin situ (原位置) で検出可能な技術を利用する必要があると考えられる。

 FISH法により微生物の系統分類学的情報と生理学的特徴を同時に把握するには、16S rRNAと機能遺伝子から転写されたmRNAを同時に検出することが一つの方法である。本研究では、従来のシングルセルレベルかつin situでの系統分類学的情報の把握に加え、機能遺伝子のmRNAをCatalyzed reporter deposition (CARD) -FISH法により検出することで、微生物の生理学的特徴と同時に把握することを目的としている。

 モデル遺伝子と微生物には、apsA遺伝子と硫酸塩還元細菌を選定し、サンプルには人工廃水を処理するUASBリアクターのグラニュール汚泥を用いた。実験の結果、グラニュール汚泥内の多くの細胞からapsA mRNA由来のシグナルを検出できた。しかし、Deltaproteobacteria綱に属する硫酸塩還元細菌群を検出するプローブを用いたFISH法との同時検出も実施したところ、両者のシグナルが全く一致していなかった。このため、本実験では16S rRNAと機能遺伝子のmRNAをFISH法で同時検出できたが、シングルセルレベルかつin situの条件で微生物の系統分類学的情報と生理学的特徴を同時に把握することができなかった。また、両シグナルが一致しなかった原因を調査するために、グラニュール汚泥内に存在するapsA遺伝子を持つ微生物をCloning法により解析したところ、apsA mRNA由来のシグナルは硫黄酸化細菌に近縁なクローンである可能性が高く示唆できた。このことから、本研究で提案した系統分類学的情報と生理学的特徴を同時に把握するためには、apsA mRNA由来のシグナルが硫酸塩還元細菌群では無かったこと、そして嫌気性バイオリアクター内になぜ硫黄酸化細菌が存在していたのかを検証する必要があると考えられた。


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