倉品 泰佑

Xバンドレーダ衛星の時系列観測による水稲生育情報の抽出に関する検討

力丸 厚, 高橋 一義

良質米の安定生産のためには、水稲の生育状態を定期的に把握しコントロールする必要がある。しかし現状では、水稲の生育状態は主に人手に依存した現地調査により把握されている。この調査手法は多大なる時間と労力が必要であり、広範囲にわたる生育状態の把握も難しい。そのため、リモートセンシング技術の応用に大きな期待が寄せられているが、現在主流の光学センサを用いた生育状態の推定手法は天候に左右されるなどの問題がある。
SAR衛星は全天候において観測が実施でき、大気の影響をほとんど受けないため、年間を通じて一定基準で観測できる。そのため、過去のデータとの互換性がある。
地上で行われた水稲のXバンド後方散乱基礎計測実験結果によると、生長に伴い後方散乱の特徴的なピークを2度形成する。しかし、Xバンド衛星SARで水稲の後方散乱を時系列観測した例は報告されていない。
そこで本研究は、高空間分解能Xバンドマイクロ波での観測が可能なSAR衛星「TerraSAR-X」を用いて、水稲の後方散乱を時系列観測した。その結果を地上基礎計測実験結果および、草丈、茎数、葉令、SPADなどの水稲生育情報と比較することにより、レーダ衛星の後方散乱観測値と水稲生育情報との関係を総合的に検討することを目的とした。
衛星観測を2008年6月〜8月と2009年8月〜9月まで行い、水稲の生長の全体を時系列で追った。衛星観測と同時期に実施した現地水稲生育調査によって得た水稲生育情報と衛星観測データとの関係を解析した。光学センサデータとの比較として、ALOS AVNIR-2のNDVIと衛星観測データを解析した。食味データとの比較として、蛋白含有量、アミロース含有量と衛星観測データを解析した。
衛星観測結果を水稲の生長前期から収穫前まで時系列解析したところ、後方散乱観測値は作付け後40日前後から減少し、80日以後再び増加した。この結果は、水稲の生長に伴いXバンド後方散乱のピークが2回生じることを示しており、地上計測結果と同様の結果を確認することができた。
水稲の後方散乱観測値は、各圃場のノイズ成分を含む結果となった。そのため、水稲生育情報と衛星観測結果の明確な相関関係は確認できなかった。
しかし、各圃場ごとに水稲生育調査結果と衛星観測結果の関係をみると、後方散乱観測値は水稲の生長に伴い減少し、圃場の表層部が面的に構成される時期から上昇していた。
衛星観測結果と光学センサデータ、食味データの関係を解析した結果、どちらも明確な相関関係を確認するに至らなかった。

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