児玉佑一郎

樹種の違いが遮断蒸発量に与える影響

陸旻皎

森林に降る雨のすべては直接、森林土壌に届くのではなく、その過程の樹冠や幹、地面に堆積した葉や枝によって幾分か遮られ、貯留し、蒸発してしまう。このことを降雨遮断と呼び、幹や樹冠で遮断された量を遮断蒸発量と呼ぶ。遮断蒸発量の推定には観測による水収支的方法と気象データとモデルを用いて推定する微気象学的方法に別けられる。降雨遮断は降雨のパターンや樹種によって異なるが日本の樹冠の降雨の遮断率は約20%前後であり、樹木による降雨の遮断は水収支に与える影響は大きい。また、近年、全国森林計画には森林の重視すべき機能に応じた望ましい森林の姿に誘導するため広葉樹林化、針広混交林化、長伐期化等に関する記述が追加で盛込まれた。これらのことから本研究では、降雨遮断モデル(微気象学的方法)を用いて、常緑針葉樹林と落葉広葉樹林からの遮断蒸発量の推定を行い、常緑針葉樹林が落葉広葉樹林に変化した際の遮断蒸発量の変化の把握を目的とする。落葉広葉樹林と常緑針葉樹林の遮断蒸発量は葉の形状やLAIに依存すると考えられたため、本研究で構築する降雨遮断モデルには樹種とLAIを考慮した近藤モデルを用い、ポテンシャル蒸発の計算はPristley-Taylor法を用いる。また、遮断蒸発量の観測データは気象や流量データのように観測はされておらず、一部の研究機関が観測している程度である。そのため、遮断蒸発量とLAIの文献値を用いて降雨遮断モデルの評価を行った。その結果、遮断蒸発量の評価を行う場所は降雨量の少ない流域で、また入力雨量による誤差を少なくするために流域平均雨量を用いることとした。そのため、対象流域を猪名川流域(約59km2)と土器川流域(約90km2)での常緑針葉樹林と落葉広葉樹林の遮断蒸発量の推定を行った。また、気象条件の異なり流域面積の大きい安倍川(約288km2)でも行った。常緑針葉樹林と落葉広葉樹林の代表的な樹種は常緑針葉樹林と落葉広葉樹林は各流域の植生分布図を用いて決定し、気象データは気象庁と国土交通省のデータを用い、LAIは文献値を参考に設定した。
その結果、常緑針葉樹林の遮断蒸発量のほうが多く、その差は、猪名川と土器川では約90〜100mm/year程度であり、安倍川では約50mm/yearであった。計算値を常緑針葉樹林と落葉広葉樹林の単位面積当たりの遮断蒸発量と仮定し、常緑針葉樹林の面積を減少させ、その分、落葉広葉樹林の面積を増加させた場合、森林全体の遮断蒸発量は減少した。その時の差は渇水流量の少ない地域において必ずしも小さい値ではないことが示された。

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