和久井 穣

鋼板に接着したCFRPシートの剥離特性解明に関する実験的研究

長井 正嗣

鋼構造物は腐食等様々な要因で経年劣化し,性能が低下していく.劣化した構造物の力学的性能を元の性能に回復させるためには鋼板をボルトや溶接により添接する当て板補修や,部材交換等により補修・補強が行われる.しかし,これらの作業を行う場合には大型の重機や,交通規制が必要となり,供用中の橋梁であれば様々な制約を受けることになる.そのため,供用中の制約条件の下で特に効果的な工法が強く求められている.そのような中,炭素繊維シートに樹脂を含侵させ硬化させた炭素繊維強化プラスチック(以下,CFRPと称する)を用いる方法が注目を浴びている.本研究ではシート長を変化させたCFRPを接着補強したフランジ幅の異なるI形鋼を用いた曲げ試験を行うとともに,新型の炭素繊維シートである,高弾性型ストランドシートを用いた曲げ試験も行った.本研究では,以下に挙げる3つの項目に着目し,剥離挙動に着目した実験的検討の結果を示すとともに,考察を加える.
1)CFRPの最外面シート長を100,300,600mmと変化させることで,各シート長に応じた補強効果の確認,及び剥離性能を調査する.2)200,300,400mmとフランジ幅の異なる鋼桁を用いて試験を行うことで,シートの幅が剥離に影響を与えるか検討する.3)従来型の炭素繊維シートとは異なるストランドシートを用いた場合の補強効果を検討する.
以上の検討結果を,1)〜3)に対応させて要約すると以下のことが言える.
1)3層,5層各ケースにおいて,もっともシート長が短い,最外面シート長100mmの補強断面では十分な応力伝達が行われないため,CFRP上のひずみが理論値の40%〜60%程度,鋼材ひずみも補強鋼板の計算ひずみを下回る計測点が多くあった.一方,最外面シート長300mm,600mmともに,補強断面では補強鋼材のひずみ理論値と実験値はほぼ一致した.これらのことから,極端に,補修部分が小さな場合でも,片側100mm以上の有効接着長を取る必要がある.2)全ケースにおいて,局所剥離の発生のみで,明確な剥離の現象は確認されなかった.今回の実験ではI形鋼を用いたため,フランジ幅の増加に伴い,分担率が変化していくが,剥離の発生が局所的なため,傾向を把握するに留まった.3)鋼材ひずみの実測値が補強鋼材の計算ひずみと一致した.また降伏荷重までに一部,局所剥離は見られたが,大規模な剥離の現象は確認できなかった.従来型のシートと比較して,同等の補強効果が得られた.これより,従来シートと比べても遜色なく,十分な補強性能を発揮できることがわかった.

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