氏名:   HENG VUTHA

降雨による斜面崩壊に及ぼす降雨履歴の影響

指導教官: 豊田 浩史

日本では,毎年,梅雨時や台風シーズンになると地すべりや山崩れが起こり,家や道路,農地,林地が被害を受け人命が失うこともある.近年でも,局地的な集中豪雨による地盤災害や土木構造物への被害が相次ぎ発生している.このような災害を予防するため,斜面崩壊に対する対策が重要である.
降雨時の斜面崩壊は,斜面内の水分量と関係が深いと考えられる.水分量が変化することにより,自重増加によるせん断応力の増大とサクション消失によるせん断強度の減少が起こる.このように,斜面の安定性を定量的に評価するためには,斜面内の水分分布を把握する必要がある.また,過去の降雨が斜面崩壊にどのようなど影響を及ぼすかを検討するために,降雨履歴を受けていない斜面崩壊との違いを比較する必要がある.
 本研究では,降雨履歴の影響を調べるため,降雨による斜面崩壊模型試験を行った.崩壊に至るまでの各パラメータの変動と崩壊メカニズムを検討するために,1)降雨浸透による地盤の含水率,2)地下水位,3)地表面変位を計測し,斜面崩壊までの降雨浸透挙動と変形過程の関係を検討した.また,実際に斜面崩壊模型試験で用いた土を使って,含水状態を考慮した一面せん断試験を行い,模型地盤の強度定数を把握した.
本研究で得られた知見を以下に示す.
1) 降雨により地盤の含水比が増加することにより引き起こされる強度低下のみでは斜面崩壊は起こらず,斜面内の地下水位が10cm程度上昇して崩壊が起こった.
2) 降雨により,斜面内の地下水位が上昇し,斜面の変位が加速され,崩壊に至った.また,降雨強度が大きいほど地下水位の上昇が早くなるため,早い時間で崩壊した.
3) 履歴降雨により地盤の含水比が若干大きくなり,平坦部には地下水位が残った.
4) 今回作成した斜面においては,崩壊時間に及ぼす降雨履歴の影響はみられなかったが,降雨履歴有りの方が斜面内の地下水位の上昇が早いため,早い時間で崩壊危険性が高くなっている.その理由の1つとして,平坦部の地下水位が関係していると考えられる.
5) 一面せん断試験より,使用した筑波山まさ土は,含水比が大きいほど粘着力が小さくなるが,内部摩擦角はほぼ一定であった.また,鉄板と土試料の摩擦試験による粘着力と内部摩擦角は,土試料のそれらより小さい.
以上の結果より,地下水位が斜面崩壊に大きな影響を与えることが明らかとなった.降雨により斜面内の地下水位が上昇したとき,斜面崩壊の危険性が高くなる.今後,斜面崩壊を防止するため,斜面下の排水条件の影響について実験を行い,斜面安定化工法の提案を行う予定である.

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