杉本 高志

新潟県中越沖地震で発令された津波注意報に関する聞き取り調査

犬飼 直之

わが国では対象地域で想定される津波高さを対象とした津波防災対策が実施されてきた。しかし、いずれもわが国全体の標準的な取り扱いからの観点からというより、むしろ被災地復興の色合いの濃いものであって、決してバランスの取れた対策とはなっていない。しかし、2001年3月から始まった想定東海地震の震源域の見直しや、その後に取り組みが約束されている東南海・南海地震とその津波対策では、その被害の広域性から、標準的な考えを見出すことが必要となっている。
2007年に発生した新潟県中越沖地震は,発生直後に佐渡島を含む新潟県全域の沿岸に津波注意報が発令され,実際に柏崎,佐渡市で津波が観測された.今回の地震により発生した津波の規模は、幸いにして小さかった為に、津波による被害はほとんど発生しなかったが,過去においては,1964年6月16日に新潟県粟島南方沖を震源として新潟地震が発生し,それにより発生した津波は新潟市で4メートルに達した他,佐渡島や粟島,島根県隠岐島でも冠水被害が出た経験がある。したがって、新潟県沿岸域でも今後津波被害が発生する可能性がある。
そこで、住民の津波に対する防災意識の現状や、津波災害時の行政の対応などを把握して問題を見出し、実態を表す指標を定量化し、問題に含まれる因果関係を確認、探索することは今後の津波防災において必要であると考え、津波防災に対してのアンケート調査を行った。
調査対象は、海岸から約200mの沿岸域で暮らしている住人とし、出雲崎町の尼瀬から、柏崎市の松波町までにかけての約25kmの領域において行った。対象領域には1433世帯あり、回収数は471世帯である。
得られた回答から、津波に対する住民意識と行政の対応においての現状を把握することが出来た。津波に対する住民意識においては、津波の危険性が十分に住民に理解されていないため、津波注意報が軽視されていることがわかった。また、災害時の行政対応においては、住民から「情報が遅い」、「情報が届かない」、「情報が不明確」と、災害情報の伝達についての不満が多く見られた。以上の結果から、津波の危険性を住民に理解してもらうための策が必要であることと、行政対応においては災害情報の伝達の仕組みを、もう一度検討する必要がある、ということが問題点であり、今後の課題として挙げられる。
今回の調査によって、沿岸部の住人の津波に対する防災意識の現状と災害時の行政対応を把握し、そこから問題点を提起することが出来た。

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