塚越広和

地方都市における定期借地権の利用実態に関する研究

樋口 秀・中出文平・松川寿也

戦後、急速に持家志向が高まり、住宅需要に対して郊外の安価な土地が宅地開発された。この郊外スプロールが、都市圏拡大と密度低下を引き起こしている。郊外の宅地は、所有権分譲方式によるものが多く、「土地神話」からも土地の自己所有が好まれた。しかし、日本は現在人口減少社会に突入した。今後は「持続可能性」の観点から、土地の「所有から利用へ」の転換が図られようとしている。地価高騰の折、平成4年に借地・借家法が改正されて創設された「定期借地権(定借)」という新たな借地権は、この問題に対する有効な手段であると考えられている。しかし定借は、全国的にも供給量が少ないばかりか、その約8割は大都市圏である。そこで、本研究では今後の人口減少が大きく予想される地方都市での定借利用の実態と定借居住者の意識を明らかにし、将来の地方都市における定借活用の可能性とその課題の考察を目的とする。
まず、既存の定借調査資料を分析した結果、近年定借の販売区画数が大都市圏・地方圏共に減少していることが明らかとなった。地方圏では徐々に年間販売区画数を増加させていたが、販売数は地域差が大きい。次に、定借の供給実績を見るために、販売区画数上位の4県を選定し、その定借事例について空間的な立地状況を把握した。地方都市の定借は市街化区域の境界部に多く立地しており、その傾向は詳細に追跡できた定借事例(ニュータウンや住宅団地、土地区画整理事業)からも読み取ることができた。定借販売業者は、その多くが郊外部での新規宅地開発に定借を活用しており、課題を抱えているといえる。
一方、長岡ニュータウンの定借居住者の意識は、定借の特徴の一つである初期費用を抑える効果を利用して住宅を購入するものの、将来は土地を購入して自己所有したいというものが多かった。対象とした事例は、特約により定借契約後であっても、土地の購入が可能であるという特徴がある。一般に地方都市の戸建て住宅購入希望者は、土地と建物を自己所有したいと考える人が多いと推測できる。通常の定借物件は、契約途中で土地を購入することが原則できないため、地方都市では定借の普及が進んでおらず、課題となっていると考えられる。
地方都市で戸建て住宅居住を考えている人は、土地・建物の自己所有を希望している。持続可能な都市を構築するために、地方都市での定借の普及、活用を推進する場合、現在の販売形式では居住者のニーズに合致していないため、特約の設定方法等改善が必要である。

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