宮袋 裕輔

2004年中越地震時の事業所被災調査データを用いた操業水準回復の要因分析

指導教員:松本 昌二,土屋 哲

今日の社会生活は,電力,水道,ガス,交通,通信などのライフラインに大きく依存している.このため,一つでも欠けると市民生活環境や経済活動環境に大きな影響が及び,社会がこうむる被害は甚大なものとなる可能性がある.ライフライン途絶などの機能損傷がもたらす二次的被害を軽減するためには,施設そのものの強化やバックアップ機能の強化など効果的な施策を実施していくことが重要である.地震災害による産業面の被害について着目すると,地震による一次的被害(物的被害)を軽減すること,および事後の適切な対応により操業水準の早期回復を果たし二次的被害(営業損失)を軽減すること,これらの組み合わせによって全体的な被害の軽減が達成されるという点が重要である.これは,「レジリエンシー」(災害時のシステム途絶への耐性)の考え方によって説明できる.
 本研究では,2004年に発生した新潟県中越地震に関して行われた産業被害調査のデータを用いて操業水準回復の要因について分析を行い,データから各種ライフラインの途絶の影響や,復旧活動,事業所規模などの要因が操業水準の回復にどう影響しているのかを把握する.さらに,ある時点における操業水準(対平常時比)をレジリエンシー指標として用い,設備やライフラインの復旧状況との関係を代替弾力性一定の階層型生産関数(Nested CES function)に当てはめることによって代替弾力性を推定することで,レジリエンシー特性を定量的に評価する.分析は,事業所別のデータを製造業・非製造業の分類で集計して行った.
 分析より,次のことが明らかとなった.復旧活動の有無が操業水準の回復に与えた影響は,操業率の変化(回復曲線)の傾きに如実に表れた.また,被災直後の10月25日時点で操業率の比較的低い企業が融資を受けていた.
代替弾力性の推定を通したレジリエンシー特性の定量的評価からは,電力途絶や設備損傷の影響が企業の操業水準に大きな影響を及ぼすことが判った.一方,ガスの途絶に対しては,他の要素に比べて代替弾力性が高い値となったため,上記2要素に比べると途絶の影響は大きくないことが考察された.また,非製造業では製造業に比べて労働(従業員数の低下)に大きく影響を受ける可能性が示唆された.



前のページに戻るには"戻るボタン"で戻ってください。